第78話  そして、監査の始まり

「わかった。監査は私達がやるから、あなた達はガルフの説得をお願い」


「了解。お前ならできる。信じてるぜ」


 すると、フォッシュが恐る恐ると手を上げ、話に入ってくる。


「私は……どうすればいいですか?」


 フォッシュかどうしようか……。

 そう考えていると、センドラーが話しかけてくる。


(こっちに回ってもらいましょう。この地に詳しい人が、必要になってくるかもしれないでしょ)


 それは、正論だと思う。けれど、それとは違う答えが私の脳裏によぎってきた。


(待って、彼女にはペタンの方にはいってもらったいいと思う。二人だけだと、感情のぶつけ合いになってケンカになっちゃいそう。冷静に、見守れる人が欲しいわ)


(そう……あなたがそういうんなら、そっちの方が正しと思う。任せるわ)


(あ、ありがと……)


 全く反論してこないセンドラー。意外で拍子抜けしてしまった。


(そういう感情や、人間の感覚的なものはあなたに任せた方がうまくいく。そんな気がするの)


(あ、ありがと──)


 評価されている──ってことかな。


「フォッシュは、ペタンの方について。こっちは私と、側近集団がやるから」


「……分かりました」


 コクリとうなづくフォッシュ。

 大丈夫。監査の方は、私が何とかするから。


 そして、私達は監査に向けて最後の準備に取り掛かった。

 相手は、何としても私達に問題があると迫れるように自分たちのあらをついてくるだろう。


 まるで、重箱の隅をつつくように──。


 だからこっちもやれる事はすべてやった。隅々まで書類を調べ、少しでも疑われるようなものは隠したり、焼いたり──。


 気分を悪くさせるようなことが無いよう、どうおもてなしするかもしっかり考える。

 そんな事をしているうちに、前日までほとんど眠ることができなかった。



 本当に、疲れた。




 いよいよ当日となる。

 睡眠時間はいつもの半分。みんな準備に奔走していて宮殿の中はバタバタしている。


 ペタンの政務室の入り口で、私達は最後の打ち合わせを行った。


「俺は、ガルフと交渉をしてくる。監査の方、よろしく頼むな」


「任せて。そっちこそ、よろしくね」


 互いに成功させられるといいな。それが、みんなのためなんだもん。


 そして、約束の時間になる。私は監査の方へ、ペタンとフォッシュはガルフの方へ。



 本当は私も行きたいんだけど、リムランドからの監査があるからいけない。

 心配だらけだ。

 何しろ、先日ガルフはペタンを裏切った。感情的になり、下手をしたら暴力沙汰になってもおかしくはない。


 その時に、冷静さを忘れずに二人の間を取り持てる人が絶対に必要。


 ……フォッシュを信じるしかない。


 私はフォッシュの肩にポンと手を置く。


「センドラー様……」


「多分、ガルフとペタンは、強く感情をぶつけ合うかもしれない」


「わかります。ペタンも、彼の事をよく怒ってましたし」


 やっぱりそうだったんだ……。


「だから、あなたの存在が重要になる。自身だけは冷静でいる事目先だけではなく。未来を見据えて行動すること、それを絶対に忘れないで」


「はい」


 フォッシュがコクリとうなづく。


「ペタンとウェイガンはもちろん、彼らの国民全員がどうすれば幸せになるのか、考えて行動すること。それくらいかな、私が言えることは」


「……ありがとうございます」


 そう言って、丁寧に頭を下げた。


 以前とは違い、どこか自信にあふれた表情。そこに、迷いや戸惑いはない。


 なんとなくだけど、行けそうな気がする。


「では、行ってきます」


「頑張ってね」


 そしてフォッシュもこの場を後にした。


(じゃあ、私達も行かなきゃねぇ)


(うん)


 その瞬間、誰かが扉をノックする。


「センドラー様、時間です」


「わかったわ、行きましょう」


 侍女の出迎えで、私も出発。ごたごたしちゃってるけど、絶対に成功させよう。



 政務室から上にある大広間に移動。


「ここで、ルートン様が食事をとっております」


「わかったわ」


 そしてノックをしてからドアを開ける。


「失礼します」


 失礼のないようにゆっくりとドアを開ける。

 ノートンが食事を終え、口を拭いている姿があった。


「ルートン様。おはようございます」


 そして私達は息を合わせたかのようにお腹の前で手を重ね、頭を下げる。


「おお、センドラーではないか。一応紹介しておこう。我がルートン。そして、こちらにいるのが我らがルートン調査団だ。よろしくな」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 小太りで個性的な髭をしたおじさん。脂ぎった汗をかいていて、偉そうな態度をとっている。


 そして、数人の側近たち。

 流石はリムランドの官僚だということでみんな高級そうなタキシードを着ている。


 おまけに椅子にふんぞり返っていたり、みんな偉そうにしている。



 ルートンさんか、こいつか……。

 そう考えていると、ライナが耳打ちして話しかけてきた。


「知ってるんですか?」


 私は、コクリと頷いて、耳打ちして返す。


「うん。結構、嫌味な奴だったわ。それはもう、仕事ができないくせに、いっちょ前に自分は有能だと思ってる。そして、何とか評価されようといつも周囲の足を引っ張ることに熱心で、いざ何かをやらせると何もできない三流人間」


「あらら……ひどい人ですね」


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る