第72話 反撃

 センドラーの言葉、確かにそうだ。

 わかってる。ここには、私とロッソ、ほか数名しかない。こんな少人数で戦っても、勝ち目があるかわからない。

 周囲には他の人もいる。やるのなら、こいつらが反撃できないくらいきちっとたたかなければならない。

 後でどんな報復が来るかわからない。


 中途半端に首を突っ込むのは、逆効果。


 やるなら、証拠をつかんで人数をきちっとそろえてからやるべきなのだが──。

「やっぱり、我慢できないよ。目の前で助けを求めている人がいるのに、何もできないなんて」


 顔をぷくっと膨らませ、ささやく。センドラーは、私の性格を理解しているようで、フッと笑み浮かべて、言葉を返す。


(その怒りは、感情的に発散させるものではないの。しっかりと、彼らが解放されるにはどうすればいいか、策を立てて、本当に村人のためになるように気持ちを出していきなさい)


(……そうね)


 今の言葉を聞いて、深呼吸をして、呼吸が落ち着いた。

 そうだ、この戦いは私の怒りを爆発させるためのものではない。


 村で困っている人を救う、そして、バルティカの実質的な占領をやめさせるためだ。

 一時の感情に惑わされて、そのチャンスを不意にするなんてもってのほかだ。


(ごめんね、センドラー)


(どういたまして。じゃあ、撤退しましょ。後で、作戦会議よ)


 そして私たちは一旦この場を去る。待ってなさい。絶対に、


 いったん村に退避。夜、暗い村のはずれで火を焚きながら話し合った。

 ロッソさんがため息をつき、葉巻を吸いながらしゃべり始める。


「ふぅ──っ。予想以上にひでぇ状況だったな」


「ええ。理性を保つので精いっぱいだったわ」


 まったく、私は怒り心頭だ。そして、鉱山であったことを話すと、ほかの兵士の人たちも怒りをあらわにする。


「マジかよ……」


「戦わないとな」


 みんなが乗り気になってくれて何よりだ。

 そして、私たちは戦いについての話し合いをして、眠りについた。



 翌日。

 朝、骨のついたチキンとジャガイモとトマトのスープをごちそうになった。

 流石にラストピアはもちろんマリスネスと比べても貧しい食事。しかし、贅沢は言っていられない。


 完食して、コトッと皿を置く。


「ごちそうさま、おいしかったわ」


 そう言うと、料理を作ってくれた男の人が食い入るように食べ終わった鶏肉の骨を食い入るように見つめ始めた。


「ど、どうしたの……」


 そしてその骨を割って、中にある茶色い髄液をむさぼるように口に入れたのだ。

 その光景に唖然としてしまう。


「す、すまんな。食いもんが足りなくて、腹が減ってるんだ」


 なんて言うか、村の現実をまじまじと見てしまい複雑な気分になる。


 そして男の人は、食べ終わった鶏肉の骨を全部回収した。全部骨髄を回収して、食べる気なのだろう。

 兵士の中には、その行動にドン引きしている人もいる。


(秋乃、わかってるわね)


(ええ、引いたりしないわ)


 この人たちは、ただでさえ貧しい生活の中で私達をもてなしてくれた。その想いに、絶対に答えなきゃ。

 絶対、何とかしなきゃ。そう強く感じたのであった。



 今度は、本格的にバルティカの奴らを叩けるように兵士たち、そして村の中で戦える人を動員して大人数で鉱山へ。



 できるだけバルティカの奴らに見つからないよう迂回道。


 道ではない枯れ木が並ぶ坂道を登り、鉱山へ。


 荒涼とした荒野が広がる中、やはりバルティカの奴らが村の人々に暴行を加えたりしていた。


「もう、本当にひどいわ」


「ああ、早く片付けないとな」


 ロッソさんの言葉にコクリとうなづいた後、向かい側に隠れている人たちとアイコンタクトを取る──。


 向かい側の人が私に合わせてコクリと頷いた。そして──。


「行くわよ、みんな!」


「わかりました!」


 フォッシュの言葉を皮切りに、私達は左右から突っ込んでいく。


「見つけたわ。何やってんのよあんたたち!」


 突然の奇襲に、マリスネスの奴らは大慌てで混乱している。

 そんな大チャンスを、私達は見逃さない。


 私も、襲ってくる兵士たちを相手に立ち向かっていく。


 兵士たちは突っ込んでくるばかりで、強いわけではない。奇襲を食らい、かなりあたふたしているのがわかる。


 応戦している人もいれば、戦っているのを放棄して逃亡している人もいる。

 所詮はバルティカで不要だと宣告され、食い詰めている人たち。無抵抗な村人には

 居丈高でも、ちょっと面食らうと大半は戦うのを放棄してしまう。


「あんた達。この人たちになんてことしてくれてるのよ!」


「わあああああああああ。助けてくれぇ──」


「てめぇら、ただじゃおかねぇからな!」


 ロッソさんも、かなり怒りをあらわにしている。

 所詮はバルティカでまともな社会になじめない、食い詰めたチンピラたち。


 私達をかく乱するような戦術とか、策があるわけでもない。バラバラに、各自が目の前で戦っているだけ。

 私達にかなうはずもなく、攻撃を受けるなり壊走していき、尻尾を巻いて次々と逃げていく。


 私達が数十分も剣をふるっていると、すぐにこの場に平和が戻った。


「ふぅ、何とか静まりましたね」


「そうね、ライナ」


 兵士たちとの戦いが終わり、私達は一息つく。

 

 

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