第71話 ボルド村の現実

 私達は、数十人の兵士の人たちと一緒に、鉱山を目指し始めた。鉱山があるのは、オオカミ族たちが住んでいる、ボルド村という所。


 中には、バルティカの兵士団長「ロッソ」さんもいる。

 長身で筋肉質、毛深い体が特徴の人だ。


「よろしくな、センドラー様よぉ」

「うん、よろしくね」


 バルティカでも一、二を争うくらいの実力者。長旅を共にする戦友として、これから、この国をよくしていく同志としてうまく関係を築いていきたい。


 そんな気持ちを込めて、ぎゅっと握手をした。

 それから、出発寸前──。


 あいつが、やってきた。

 ラストピアからライナが──。


「センドラー様ぁ~~、さみしかったですぅ」


 ライナはうっとりした目つきでほっぺを擦りつけてくる。


「決してデートじゃないから、そういうことは二人っきりで、デートの時間でやろうね」


 私は苦笑いをしながらライナのほっぺをはがす。

 後ろでセンドラーが、すっごい表情でにらんでいるから、やめて……。


 にぎやかになりそうだ。




 そして、出発。数日間の旅を終え、目的地へ。


 旅をつづけ、街に近づこうとしたとき、先頭の案内役が何かに気づいた。


「川、ひでぇな……」


「確かに、そうね」


 その言葉に私も周囲の人たちも道と並行している川を見て、愕然とする。


 川は、茶色に濁っていて明らかに汚染されていた。水面をよく見ると、魚の死体がところどころ浮いている


 街の人たちが、どうやって飲み水を確保しているのか、とても心配だ。

 現地人のことなんて、全く考えていないのがわかる。


 水源がこんなんじゃ、川下の人みんな病気になっちゃうじゃん……。


 街にたどり着く前に、すでに嫌な予感しかしない。


 そして目的地の、マリスネスのボルド村へと到着。

 街についた瞬間、思わずため息がこぼれた。


 街は、全体的にさびれている。

 更に村の人たちの姿。ボロボロの服を着ていたり、どこかやつれているように見えたり──。窓のガラスが所々割れていて、治安が最悪な状況だというのが理解できる。



 予想通りで、思わず苦笑い。


「ちょっと、村の人たちに話しかけてみましょう」


 私が提案をすると、兵士団長のロッソも賛同してくれた。


「そうだな」


「そうですね、センドラー様」


 それから、辺りを見回し適当な人がいないか見回す。

 歩いている人は、みんな元気がない。


 確か、国の状況を測る物差しとして役人や兵士にしっかりと給料が支払われているかってのがあった。

 国の状況を理解するためにも、役場に行ってみよう。


「すいませーん。誰かいますか?」


 ドアをノックして開け、話しかける。

 埃かぶっていて、人気がない建物の中。手入れが行き届いていないってのが良く分かる。


「なんじゃ、あんたは」


 部屋の奥から、一人の人物が出て来る。


 白いひげを蓄えた、かなり高齢の人だ。

 その人は、残念そうな表情で、一度ため息をついてから答えた。


「もらってねぇよ。機能不全だよ、役場なんて」


 どうにもならない国の特徴だ。

 まず、役人たちの給料がまともに支払われていない。そして生活に困った役人たちはいとも簡単に不正を犯してしまう。


 一応話を聞いた。


「なるほどね……」


 バルティカ王国に吸収されて以降、治安維持を名目にバルティカから兵士たちがこの街や鉱山に駐留し始めた。



 そしてその兵士たちなのだが、非常に素行が悪いうえに、鉱山での収入を得るために強制的に村人たちに武力をちらつかせて、徴発。



 そしてこの地域を管理していたオオカミ族の奴らはバルティカに媚を売るだけで全く助けない。

 強制的に労働力を供給する命令。おかげで山への刈りや畑仕事の人員が足りなくなってしまい、困り果てているというのだ。

 さらに挑発された人々は過酷な労働で次々と倒れているらしい。


「ひっでぇなあ」


 ロッソさんが頭をぽりぽりかきながらため息をついた。私だってつきたいよ。


「それで、こいつらの悪行は分かった。これからどうする?」


 私は、その言葉にしばしの間腕を組んで考えた。そして、答えを出す。


「とりあえず、行ってみましょうこの地の人があの鉱山でどんな目に合っているのか──」


「そうですね……」


 フォッシュがコクリとうなづく。


 そして私達は荷物を置いた後、目立たないように人数を絞って鉱山へと向かっていった。


 私やライナ、フォッシュと数人ほど。

 バルティカの人たちと遭遇するのを避けるため、回り道をして鉱山へと向かう。

 茶色い土が続いている広陵の大地をしばらく進むと、その場所はあった。



 兵士が現地の亜人達を鞭でたたいたりしている。


「オラオラオラァ────。働け働けぇぇぇっ!」


 つるはしを持って、岩肌を何度も掘っているのは、ボロボロの服を身にまとった、痩せこけた獣人の労働者。


 銅を運んでいる人も、歩き方がどこかふらふらで、細い体つきをしている。


「予想通りといった感じですね」


「そうね」


 流石に、少ない人数で感情的に行った所でいい結果にならないというのは私も良く分かる。

 拳を握ってどついてやりたい気持ちを抑えながらその様子を観察している。


 そして金髪で、いかにも悪そうな眼付の男の人が、銅を運搬している女の人とかち合ってしまう。

 すると、にやりと笑みを浮かべた瞬間──。


「へへっいい女じゃねぇか!」


「や、やめて下さい!」


 何と女の人を襲い始めたのだ。嫌がる女の人を無視して、兵士が襲い掛かってくる。女性は慌てて逃げると、兵士はケッと捨て台詞を吐いて、この場を去っていく。


 思わず、飛び出して助けたくなる。


(待ちなさい。下手に行ったら報復されるわ)


 センドラーの言葉、確かにそうだ。

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