第59話 感じた違和感

「これで、契約成立だ」


「へっ。ありがとな──」


 そして二人は強く手を握る。協力関係はこうして成立。


 最初はどうなるかなって心配したけれど、これならうまくいきそうだ。


 私の心がほっとして、胸をなでおろす。しかし──。



(どうしたの? センドラー)


 センドラーは違った。顎に親指を当て、何か考え込んでいる。

 明らかに何かを気にしている様子だ。


(気になるところがいくつかあるわ まだ確定したわけじゃ無いけれど、手放しでは喜べないわねぇ)



 私にはよくわからない。けれど、センドラーは何かを感じ取ったみたい。


(何があったの?)


 しかしセンドラーは何かを考えたまま答えない。


(まあ、私の気のせいで済めばいいんだけど……)



 センドラーは真剣な表情で、ただ遠くを見つめていた。まあ、最後まで油断



 取りあえず、協定は成立した。これでコボルトの人たちは守ってくれる後ろ盾を手に入れられたし、ペタン達は新たな仲間を手に入れることができた。


 けれど、センドラーの疑いの言葉。

 彼女は、直感も鋭いし、頭も相当回る。何かを感じ取ったのだろう。


 私にはよくわからないけれど、センドラーは何かを感じ取ったのだろう。

 油断しないよう、いろいろ気を受けよう。










 それからの私達。


 ペタンは数週間後、正式にウェイガン達を国民と認める締結式をする事となった。



 私やフォッシュ達もそれを見届ける。


 それから、一端ラストピアへ戻った。


 そこで待ち受けていたのは私でないと出来ない仕事の山。

 マリスネスへ行っていた間、滞っていた仕事を片付けるため、ライナ、ミットと一緒に毎晩遅くまで仕事仕事仕事……。

 ちなみにライナとはこの埋め合わせで、今度デートをする事になった。


「ありがとうございますセンドラー様。私、精一杯頑張りますっ!」


 ライナは目をハートマークにして言葉を返す。

 ……変なことはしないからね。


 それともう一つ驚きの事態。何とブルムがやってきたのだ。あのリムランドで汚職まみれのアイツ。



 宮殿の廊下で偶然鉢合わせになり、「お前、マリスネスへ行ったらしいな。どうやってバルティカから守り切るつもりだよ? 言ってみろよ。ホラホラ!」などとからかうように迫ってくる。余計なお世話だ!


「へっ。お前が無能だということを、この俺様が証明してやるよ!」


「あっそう……。ご勝手にどうぞ」



 適当にあしらって何とかごまかす。お前なんかに言うわけがないっつうの!


 そして何とか職務の遅れを取り戻し、再びラストピア出発。


 マリスネスへ──。



 私は数日前にマリスネスへ到着。

 ちょっと早い到着にペタンもフォッシュも驚いていた。


「センドラー様。早く来られましたね」


「はい。どうしても調べたいことがあったので──」



 そう、彼らの契約の前にやらなければならないことがあったのだ。



 それは、馬車での出来事。


「センドラー様」


「なに?」


 センドラーが体に入り、私は後ろの荷台でゴロンとしているタイミングでライナが聞いてきた。


「マリスネスでやることがあるって言ったじゃないですか」


「ええ」


「何があったんですか?」


 センドラーはいつもの自信満々などや顔で腕を頭の後ろに置き、くつろぎながら答える。


「以前コボルトたちの集落。そこの査察で、私いろいろ書類とかあさってたじゃない?」


「はい」


「いろいろと不審点があったから、調べたかったの」


 私達は、センドラーから不審な点の説明を受けた。

 ドヤ顔のまま──。




 一つ目、このコボルト族。その中でウェイガンの隣にいた男。参謀であるベルクソン。彼は妻を数人持っているのだが、そのうちの一人が、リムランドのブルム派の貴族の娘だった。


 なので彼はリムランドやブルムと何かしらのつながりを持っている可能性がある。


 二つ目、それは以前、センドラーが集落の中で書類を見ていた時に気付いたのだが、このコボルトの人たち。ここに来る資金の借入先としてリムランドがあったのだ。


 彼らだって、遊牧民とはいえ武器を買ったり、生活するのにも多額の資金が必要だ。

 今回弾圧を受け、急遽亡命を余儀なくされたので、当分の間の資金が必要になったらしいが、その借入先の大半がベルクソンの人脈を通してのリムランドやバルティカ経由の借り入れだったらしい。


 だから、リムランドと何かつながり可能性がある。

 そんな彼らが、マリスネスに接近した理由がとても気になるとのことだ。


(まあ、リムランドだって自分たちの勢力を増やしたくて金を提供しただけの可能性もあるし、今回とかかわりがあるかどうかわからないけれど、一応見た方がいいわぁ)



 そして三つ目。




「三つ目。これほぼ直感」


 センドラーが話したのは、先日ブルムが来た時のことだった。

 私達がマリスネスにつき、バルティカについたから私達はすでに敵同士だ。


 だからブルムは私に何をしているのかを聞こうとしたのだろう。

 しかし、必死に突っかかるというよりは軽口で挑発するような感じだった。


 なにか秘策でもあるかのように……。


「まあ、そんな感じよ。はっきりとした根拠はないけれど、いろいろ違和感を感じたの」


 ──まあ、センドラーがそう思っているなら、多分、何かあるってことね。


 そして私達はマリスネスに到着。

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