第49話 寄せ集めの国の、本当の現実
「このガルフのクソ野郎。お前だ。どういうことだこれは!」
「国王様、落ち着いて落ち着いて」
アイツの名前はガルフね。ふむふむ。
にやりと挑発するような笑みを浮かべ、言葉を返していく。
「落ち着いてられるか! どうしてバルティカの野郎に反撃しない。懐柔して属国になった? いくらもらった?」
感情的に怒鳴り散らすような起こり方ではないが、どす黒い声色の中に、激しい彼に対しての怒りを感じ、はらわたが煮えくり返っているのがわかる。
「いやいや、だってバルティカの大軍ですよ。反撃したって返り討ち食らうのがオチですぜ。それに属国なんて失礼な。俺たちの土地の鉱山からくる銅。その買い取り額があんたらより高いから味方した。だったら俺たちは彼らに取り入った。それだけですよ。そして俺様に賛同してくれる人たちだっています。だよな」
ガルフは挑発するような笑みで言い放つ。
「ああ、俺達も賛同している」
「俺もな。ほら、手を上げてくれよ」
そしてそれに賛同している人たちが手を上げた。
ざっと四人。これって、四対四ってことよね。
「まあ、互角ってことですな。ただ……」
「すでに土地は占領されている。有効な手立てはない。このままではなし崩し的に併合されるだけです」
するとペタンはガルフたちを指差し、反論。
「──銅山はどうなる。お前達との国境線にあるグラル山脈にある銅山。あれは国としても重要な収入源なんだ。出ていくなら、あれは没収させてもらう」
フォッシュはこの国の実情を知っているようで、耳打ちでひそひそとその実情を打ち明けてきた。
そもそもオオカミのガルフの奴らは 別に自分たちが苦労して掘り当てたのではなく。
原住民から銅の噂を聞いた先代の国王様が大量の金をつぎ込んで発見したのだ。
そしてガルフたちは先代の人から命を受け、鉱山の運営をしている。
当然、こういった資源には争いが生まれる。
先代は今回の様に資源をめぐって彼らの寝返り対策はしていた。
それを考慮し、狼たちはかなり優遇されているのだ。
すでに彼らには予算を多めにもらっている。それでも、足りないと要求しているのだ。
おまけに、鉱山の労働者たちの扱いも悪いうわさが絶えない。他の土地から来た出稼ぎの人たちを奴隷の様に低賃金で奴隷の様に働かせているらしい。
手を上げている亜人の代表たちも、恐らくそこから出た利益を回してもらい反対に回ってもらったのだろう。
以上がフォッシュの言葉。
──そんなことだったなんてね。
そんなことはなかったように、ガルフがさらに反論。
「ダメです。あれがあるからバルティカは俺たちに話しかけてくれたんです。今まで通りあれは俺の物です」
(もう、自分から属国になったことを隠しもしない。呆れるしかないわぁ)
センドラーは腕を組みながら額に手を当て、呆れる。確かに、同感だ。
そしてペタン、語尾が強くなり、言葉に怒りをにじませ反論。
「ふざけるな。あれがなくなったらみんなが経済にダメージを受ける。認めないからな」
「まあまあ、落ち着いて落ち着いて」
「これが落ち着いてられるか。絶対に認めない」
「いやいや、認めないも何も、自分たちが誰と手を組んでどこの国に属するかは、俺たちの自由なんだからよぉ」
「もう、ペタンのやり方にはうんざりだよ。もっと俺たちを、優遇しやがれってんだよ!」
すると、獣人の兵士の格好をした人が横から話に入る。こいつも、オオカミの提案に手を上げていた。
「待て、お前たちは 予算も、特権だって与えている。それに、あれは本来貴様たちの物ではない。そうだろ?」
「あ──っ? そんな昔ばなしもう忘れちまったよ。嫌ならもっと俺たちを優遇すりゃあよかったんだよ。自業自得だバーカ」
すると、別の獣人の人が舌打ちをした後、反論した。
「ふざけんじゃねぇよガルフ。すでにお前たちは優遇されてんだろがよ。これ以上ふんだくるなんてありえねぇだろ」
「俺も同感だ。優遇つったって限界がある」
他の亜人達も、彼らにヤジを飛ばしていく。
どの亜人達も自分たちの言語を使っているせいか、何を言っているかよくわからないのだが。
(なるほどね、大体理解したわぁ)
センドラーがため息をついて話してきた。どこか呆れているような、冷めた様子。
(何が?)
(この国って、ラストピアと違って何もない土地に、いろいろな人を寄せ集めて作ったでしょう)
(そうだったわね)
(だから人々に国って概念が無いのよぉ。みんな国ではなく、自分たちの種族にアイデンティティーを持ってしまう。その結果国家に対する忠誠心がなくなり、国の物を私物化してしまうのよ)
なるほどね……。
国民という感覚がなく、結果この国の予算は自分達の物という感覚でしかないのだろう。
そして再びフォッシュは話しかけてくる。
こいつらだって国王の手前各亜人のためだとか言っているが、どれもこれも国から与えられた予算を自分やその側近だけで独り占めしていて、国民達は貧しい思いをしているらしい。
何でも、建国当初は各亜人達がようやく見つけた安堵の地ということで支配層の人たちも国民達のことを考えていたのだが、月日がたちその息子たちが政務をとり始めたあたりから彼らは貴族化。ただでさえ貧しい国なのに、その富を独占してしまっているのだとか。
(──やっぱりそんな感じなのね)
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