第48話 そして「全国代」の始まり

 数分ほどするとフォッシュは交渉を終え、どこか機嫌がよさそうな表情で私のところに戻ってきた。


「センドラー様。大丈夫なようです。行きましょう」


「そ、そうだね……」


 兵士の中にフォッシュのことを知っている人がいたらしく、その人のおかげで顔パス同然だったみたい。よかったよかった。


 そして私達は王宮の中へと乗り込んでいく。

 一応フォッシュの付き人という設定なので、フォッシュの後ろをかしこまった態度で歩く


「ここです」


「よくわかるじゃん」


 一応リムランドの言葉で会話しているので、会話自体はいつものままだけど。


「この王宮。子供のころによく言ったことがあるので、間取とかわかるんですよ」


「へぇ~~」


 顔なじみだったんだっけ。それなら、信頼関係とかも築けそうだ。

 階段を登って少し歩く。


 手入れがあまりされていなくて、どこか古びた赤絨毯の道を歩き、大きな扉の前で立ち止まる。


「ここが部屋です」


「分かったわ。じゃあ行きましょう」


 そして私達はノックした後、ドアを開け中へ。


「皆さん、よろしくお願いします」


 大きなシャンデリアで照らされた広い部屋。

 中は会議室の様に大きな机があり、それを取り囲むようにいろいろな人が座り込んでいた。


 エルフの耳を付けていたり、ウサギや猫の毛耳を付けた人。獣人なんかもいる。

 服装も、各人種の伝統服を着ているようでバラバラだ。


 その姿を見ていると、フォッシュがひしひしと耳打ちして話しかけてくる。


「彼らが、この国の亜人の代表たちです」




 私達は彼らの姿を視界に入れた後、指定された席に座る。



 聞くところによると、マリスネスは現国王の下に主要亜人の各代表がいて、彼らと一緒に手を取って運用しているらしい。


 国王は彼らの代表みたいなもので、彼らの利害を調整したり、争いが起こった時の調停などが主な仕事のようだ。




 さらに、この国の制度についても教えてくれた。


 この国は七つの亜人がそれぞれ自治区をもって暮らしている。

 そして法律を決めるときや、予算の執行、国の方向性を決めるときなどはその七つの亜人が一票、国王が一票をそれぞれ持っていて、多数決で投票を決めるのだそうだ。


 合計八票これだと四対四になった場合何も話が進まず、会議が空転してしまうので、各亜人に対して損が出ないように各利害を調整したりしているそうだ。



 また、この国は元々一貴族が何もない所から作り上げた国ということで国王の権威が高くない。おまけに武力も貧弱なので、各亜人達の協力がないと国を収めきれないのだ。


「国王様は、この不安定な基盤の国で、みんなが安心して暮らせるよう、努力しているのです」


「確かに、大変そうね」


 私は思わずため息をついた。権力が集中しすぎるのも問題だが、分散しすぎも問題だ。

 各自が好き勝手に動き、調整が難航する。そして互いが損をしてしまい、貧窮するのだ。





(なるほどねぇ。もうわかったわぁ)


 センドラーが彼らが座っている姿を見て何かに気付いたらしい。

 みんな、むっとしていたり不機嫌そうな表情で腕を組んだりしている。


 確かに、みんな仲が悪そうだ。そういうことなのかな?


(何が? 彼らの仲が、悪そうってこと?)


(それもそうだけど、もっと大事な事よ──)


 センドラーがそこで言葉を切ると、ふたたび入口の扉が開く。


(あとでわかるわぁ。とりあえず話を聞きましょう)




 すると警備の兵士数人と、それに囲まれて一人の人物が出て来た。

 若くて黒髪、ツンツン頭の髪型をしている。



 ここにいる中では、一番に豪華そうな服装をしている長身の男の人だ。


 白を基調としたマントは、ややこばんでいる。額に手を当て、どこか焦りが生まれているように見えた。


「彼が、マリスネスの現国王、ペタンです」


 一瞬フォッシュと彼の目が合う。彼女はその瞬間席から立ち上がった。


(ほら、秋乃も立って! 付き人の設定、忘れたの?)


(あ、はいはい)


 私も一緒に立ち上がると、ペタンはこっちに視線を向けてきた。


「お久しぶりです。貴方に助け舟を出そうと、この場に来ました」


 フォッシュの微笑を浮かべた表情。ペタンがそれを見ると、一瞬だけ驚いて動きが止まる。


 全員が一斉に礼をする。

 ペタンは一度舌打ちをした後、要人たちをにらみつけて椅子に座った。


「では、恒例の全国国民代表会議を始める」


 ペタンの掛け声に、亜人の代表たちはコクリとうなづいたり、あくびをしたり。

 どこか、イラついたような声色。要人たちも、机を肘についたり態度が悪い。


 私が見てもギスギスした雰囲気だというのがわかる。

 亜人の人たちは、ため息をついてペタンをただ見ていた。


 舌打ちの声にあくび。ペタンへの敬意がないことは、一目で明らかだ。


「ふぁ~~あ。早く終わらせてくれよ。もう俺たち、お前の奴隷なんかじゃないんだからさぁ──」


 一人のオオカミの獣人の代表が両手を頭の後ろに置き、椅子に寄りかかりながらしゃべりだす。


 すると、ペタンはその人物を強くにらみつけ、バンと大きく机を叩いた。


「このガルフのクソ野郎。お前だ。どういうことだこれは!」

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