第46話  今度は、マリスネスへ

 コンコンと誰かが扉をノックしてきた。


「何の用だニャ?」


「私です。センドラー様」


 クリーム色の整ったロングヘア。

 そしてエルフの象徴である長い耳。以前であったこのくにで働いている人。フォッシュだ。


「どうしたの?」


 私はベッドから起き上がり、身を整えて聞く。

 フォッシュは、どこか焦っているように感じていた。


「その、お願いがあるんです──」


 私は、柔らかい口調になって聞いてみる。


「マリネリスの国王に会ってほしいのです」


「な、何で?」


 フォッシュは、私に近づいて、さらに話を進めた。


「聞かせていただきました。バルティカとマリスネスの話──」


「ああ、あなたにも伝わっていたのね──」


「最初は私も、特に警戒はしていなかったのですが──」


 フォッシュはため息をついて、さらに話を続ける。

 その話の内容に、私は驚愕した。


「ええっ? 兵士たちを無理やり進駐させて占領している?」


(本当にぃ? 武力で併合ってこと──)


 詳しい話によると、バルティカ王国が突然、マリスネス王国が国境付近で農民たちを攻撃したと発表。


 すぐに兵士たちがマリスネス王国の領地の一部を占拠。その後、兵士を駐留させたまま実質的に支配しているとのことだ。


「待って、そこにだって住んでいる人たちや領主の人は? 彼らが黙っているなずないでしょ?」


「先ず住んでいる人たちなのですが、これは武力で押さえつけています。次に領主の人です。これがおかしい話なのですが、何も言ってこず、交渉をしている状況です」


 その言葉に私は首を傾げる。


「なんで? 一般人はともかく、領主の人は反発とかするはずでしょ?」


 すると、後ろにいたセンドラーが一つの仮説に気付く。


(そいつとグルってことよぉ。攻撃したとの発表ってのも多分嘘。あらかじめ国境付近の領主とグルになっていて、お金を渡す見返りに俺たちの領地になってほしいって頼んだんでしょう。そして領主が首を振った後に適当な理由をでっちあげて、攻め込んだってことね)


「とにかく、行ってみましょう。一大事なんです」


 フォッシュの真剣な表情。隣国のことだから無下に扱うわけにもいかない。


「わかったわ。話を進めてみる」


「あ、ありがとうございます!」


 フォッシュははっと笑みを浮かべ、私の両手を握った。


 他にも、私はフォッシュといろいろなことを話した。

 彼女の家は、マリスネスの国境近い土地の生まれ。商人を通して、ペタン達と資源や食料のやり取りをしていた。


 ペタンとはその時出会ってからフォッシュと子供のころからの友達同士で、食事をしたり、今も手紙でやり取りをしているらしい。


「もしかしたら、私も力になれるかもしれません。差し支えなければ、少しの間一緒に行動していただけないでしょうか」


(いいと思うわぁ。子供のころからの友達なら、信用も厚いだろうし、何かを頼むときに


 そうだね、センドラー。

 私達は、マリスネスのことについて詳しく知らないし、強いパイプがあるわけではない。

 相手にとって信用できる人がいれば、交渉事だって通りやすくなるかもしれない。


「わかったわ。この件について、フォッシュさんの力を これからも、よろしくね」


「ありがとうございますセンドラー様。このフォッシュ、力の限り尽くさせていただきます」


 フォッシュははっと明るい表情になった。


(わたしも、行った方がいいと思うわぁ──なんか嫌な予感がするのよ)


 センドラーが私の後ろで冷静に言い放つ。

 やっぱりセンドラーもそう思うんだ……。


 それから、私は再びロンメルのところへ。半ば無理をしてこの調整を頼み込む。

 両手を重ね、頭を下げた。


「お願いします。隣国のことなんですよ──」


「う~~ん、しょうがないね。わかったよ」



「じゃあ、スケジュールの調整はしておくから、予定が決まったら連絡するわ」


「あ、ありがとうございます」


 そしてフォッシュは職務があるようでこの部屋を去っていく。


「じゃあスケジュール、調整しましょうか」


 その後、私はこのことをロンメルに相談。

 隣国の近く、そこが怪しい動きをしている。


 そしたら、何とかそこへ行く許可をもらった。

 その間、ラストピアが困ったりしないように仕事の割り振りも変えてもらう。もちろんまともな奴に──。



 彼には感謝の言葉でいっぱい。頭が上がらない。これで心置きなくマリスネスに行くことができる。


 流石にライナとミットはダメだったけれど……。

 二人には、私がいない穴を埋めてもらうためだから仕方ない。


「私のセンドラー様~~」


 ライナは、私に抱き着いて泣いていた。ごめんね。

 今度、一緒にデートをするという埋め合わせをして、何とか納得してもらった。






 そして数日後馬車で私達はこの街を出発。


 馬車で旅をしながら私はフォッシュからいろいろな情報を聞き出す。

 まず、この時期は国王と、その配下の各亜人の代表が集まり、会議をする全国国民代表会議。

 通称「全国代」が開かれていて、フォッシュはそれに何とか出席することで情報を得ようということらしい。




「この国は、いろいろな亜人や種族たちが集まっている国なんです」


「へ~~」



 聞いた話によると、この国は今の国王のお父さんが、何もない場所にいき場所を失った人たちをかき集めて作った土地だ。


 行き場所がない人が集まる場所ということで、誰でも受け入れる『自由都市』と名乗った。

 自由都市というのは、聞こえはいいかもしれないが実態は無法地帯といった方が近い。


 おまけにこの国の人たちはずっとこの地で暮らしてきたわけではなく、他の地方から命からがら逃げてきた人たち。だから団結心が薄い。みんなが自分たちの部族や亜人のために行動し、汚職が横行している。



 事実この国の中では亜人ごとに派閥を作り、いがみ合っていた。


 国民というアイデンティティーがなく、各亜人それぞれが独自に国の中で自治区を作り、それが彼らのよりどころになっている。



 そもそも彼らは各部族単位で生活していたため、国家というものが良く理解していない。

 だから国家の金と自分の金という境界線が全くない。平気で自分たちの物と混同してしまうのだ。


 それだけではない、土地自体も今まで誰も寄り付かなかったということは訳アリの土地。


 土地がやせていて作物がよく取れなかったり、伝染病が蔓延していたり──。

 なので国内の亜人達の中で争いが絶えない土地なのだ。




 大変そうな国だ。けれど、彼らだって、各地から弾圧を受けたり、難民になったりして、ようやく見つけた安住の地という側面もある。



 何とか、彼らの役に立てるよう頑張りたい。

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