第45話 アイツ、ただじゃおかないんだから
「──期待しているよ。こちらこそよろしくね」
ズテークは機嫌がよくなったのか、にやりと笑みを浮かべた。
ということで、話は成立。ラストピアに帰ったらみんなにこの話をしないと──。
それからも、私達は食事をしながらいろいろな会話をした。
この地方の文化、考え方など。
何か他に困っていることはないかとか。
やはり、ラストピアと比べるとどこか貧しく、どうやって豊かにするか悩んでいるらしい。
そんな時間を過ごして、私達の会食は終了した。
取りあえず、ズテークの話に乗ってみよう。
といっても私はロンメルの補佐役としての仕事もある。今回だって急な遠征のせいで、滞ってしまっている政務だってある。遠い他国の調査にはどうしても時間がかかってしまう。
何とかしたいとはおもうけれど──。
そんなことを考えながら、私達はこの宮殿を出ていく。
そして私たちが出ていくタイミングとすれ違いに、一台の馬車が城の中に入って行った。
金や銀で飾られた、趣味悪くいかにも成金が豪華さを見せつけているような馬車だ。
そしてその中にいる人。その人物に目を奪われた。
「どうしたんですか、センドラー様」
「ごめんねライナ。あいつを見ていたらなんだかイライラしちゃって」
「あの人、何かあったんですか。センドラー様」
ライナの質問に私はため息交じりに答える。
「レオル・ブルム。リムランドの政務を担当している貴族の一人よ」
リムランド本国で面識がある相手。
はっきり言って最悪だ。権力欲や出世欲が誰よりも強く、自分の利益のためなら部下や国民達がどうなろうと知ったことではないいうやつだ。
「現状、まだブルムが何をしてくるかわからないけど。警戒はしておかないとね」
(そうねぇ。何か目的が無かったらこんな偏狭な土地に来るはずないものぉ)
センドラーも同意見のようだ。バルティカの一件。面倒なことにならないといいけど。
とはいえ
ほどなくして、ラストピアに帰還。
まずはこの話を部下たちにも話す。
そしてロンメルにこの話を進め数日が立った日、衝撃の事実が私の耳に走った。
「えっ? ジイドの奴が勝手に査察に行った?」
「そ、そうみたいです……」
ライナの困り果てているような言葉からの言葉。仕事中にもかかわらず私は予想もしなかった出来事に思わず書類を落としてしまう。
なんと私達に黙ってジイドの奴が勝手に調査団を派遣してしまったのだ。
すでに昨日、自分の支持者を連れて出発してしまったらしい。
おまけにこの後も街のために仕事があり、手を離せるような状況ではないのだ。
「だ、大丈夫でしょうか……」
「……ちょっと頭を整理させて」
アイツは──、確かリムランドで下級貴族出身だったはず。
それなら、相手に失礼がないような最低限の礼儀はできるはずだ。
「ごめん。今はどうしようもない。帰ったらとっちめる。以上」
仕方がなかった。覚えておけ、あの野郎。
そして二週間ほどすると彼はラストピアに戻ってきた。
すぐにジイドの罵声を浴びせるがカエルの面に蜂。
「リムランドにいた俺が言った方が、お前が行くよりもいいと思ってね。つい……へへへ」
にやけた笑いを浮かべ、全く反省していない。当然、処罰の対象になった。
そして査察の結果。
結果は、悲惨の一言。
(バッカじゃないの?)
センドラーも、この時は額に手を当て、ただ呆れかえっていた。
バルティカ王国から、怒りの手紙にこいつらの行動がすべて乗っていたのだ。
まず彼らが城にたどり着くなり受けたのは露骨なわいろ。莫大な資金をバルティカの役人から受けとっているのを確認。
さらに夜になると金と女に囲まれて豪遊三昧。酒に酔いながら女と宴をしている姿をベルティカからも注意を受けた。
そして報告書には、問題ないとの記載。
一ミリも信用できない書類だというのは言うまでもあるまい。
当然、バルティカの奴らもそれは見抜いていた。彼らが独自で私にあてた手紙には、こう記してある。
「もういい。話は聞かせてもらった。あんな無能集団だとは思っていなかった。いらない」
そんな捨て台詞を手紙に書かれる始末。
金輪際ラストピアに頼まないとまで言われてしまった。
机に突っ伏して、うなだれる私。いくら処罰を貸すといっても、結果が覆ることはない。
とはいっても、私だってあのタイミングで勝手なことされたら、対応なんてできないし……。
もしセンドラーと私、身体が二つあれば、いいや──私が四、五人くらいほしい~~。
思わず地団駄を踏む。しかし、他の職務を投げ出すわけにもいかずどうすることも出来なかった。
あの後、私はズテークたちにお詫びの手紙と、もう一度私自ら審査をやらせてほしいとの手紙を送った。
しかし、時すでに遅し。
私の名を見た瞬間に突っ返され、
中身を見てすらもらえなかったという……。
「悔しいぃぃぃぃぃっ!!」
私は部屋のベッドでうつぶせになり、手足をじたばたさせながら叫ぶ。
「災難でしたね、センドラー様」
そう言いながらライナは机にコトッとコーヒーを置いた。
ミットが勉強を終え、コーヒーに口をつけ、一言。
「センドラー様は、何も悪くはないのニャ」
「だけどね、監督責任ってもんがあるのよ」
これが管理職の辛い所だ。
あの野郎、今度会ったらちゃんと処罰しておかないと。
そう考えていると──。
コンコン──。
誰かが扉をノックしてきた。
「何の用だニャ?」
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