第43話  バルティカ王国

 フォッシュはその言葉にわずかに表情が暗くなる。


 彼女は、不正を嫌う正義感のある人物だ。

 そんな彼女から食事をしながらいろいろと聞いてみたかったのだ。

 周囲との関係はどうなっているのか、何か困っていることはないか、怪しい動きをしている人はいないかと。


 そして数回食事を運び、それを飲み込むと、答え始める。


「まあ、多少腐敗があるというのは聞いていましたし覚悟はしていました。綺麗ごとだけでは国は動かせませんしね──。しかしそれ以上に納得できないことがあります」


 フォッシュは顔をしかめしゃべる。


「納得、出来ないこと?」


「リムランドからの出向組の人たちのことです。何とかならないんですか?」


 フォッシュの困り果てた様な表情。私には理解できる。


 リムランド組はここに来た時からある程度の地位が約束されている一方、このラスト=ピアで採用された人たちは彼らに重要ポストを占領されてしまい、低い地位のままである傾向にある。


 そして厄介なのは彼らは能力にかかわらずひたすらリムランド組に従わなければいけないということだ。

 その人物が能力を持っていてもだ。



 さらにフォッシュは耳の長いエルフであり、亜人というのはこの国では身分が低く見られてしまう。

 フォッシュ自身も、それを強く感じているのだろう。



「リムランドから来る奴。ちょっと程過ぎませんか。使えないやつばかりです」


「確かに、私もちょっと感じてた……」


(同感よぉ。無能の上に、裏で変なことやらかす傾向が高い。何とかしたいわぁ)


 さっきのジイドのことを思いだし、苦笑いで言葉を返す。センドラーもそれは、感じていたみたいだ。



「確かに、この国にも事情がある以上私も出来る範囲で対応は致します。しかし許容できないラインというのがあります。彼らのせいで関係ない人たちが迷惑をこうむること。これだけはあってはなりません」


 その通りだ。だから私だって、出来るだけ一人一人の能力を見極めて、指示を出したり仕事の担当を振り分けねばならない。

 しかし、何事も限度というっ者はある。


 フォッシュはため息をつきながらつぶやく。




 フォッシュと会食をしたもう一つの理由が、この後の呼び出し。


 新しく国王になったロンメル。彼に昼過ぎに、部屋に来てほしいと呼び出しを食らったのだ。

 私とフォッシュ、ライナ、ミットが──。

 何の呼び出しかはわからない。けれど、彼の事だから不合理な事なんてしないだろう。


(まあ、罠にかけられることが無いよう、祈るだけだわぁ)


 センドラーの言う通りだ。




 そうだ、確かに時にはしがらみに縛られるようなことだってある。ジイドだって、無下に扱えばあいつの家やリムランドからどんな事を言われるかわからない。


 しかしそれによって一般国民が被害を受けることは絶対に避けなければならない。



「私もなんとか国民たちに実害が被らないようにはしますが、限界がありますし──」


 確かにそうだ。権力もない一般の事務員にできることは考えられている。

 私が、何とか力にならないと──。


「意見をありがとう。参考にさせていただくわ」


「あ、ありがとうございますセンドラー様。私なんかの意見を聞いていただいて。この恩は忘れません」


 フォッシュとの会食から一週間後──。



 私とライナ、ミット

 小麦畑が広がる畑。涼しい気候。雲一つない快晴の空。

 思わず笑みを浮かべるような美しい光景の下、私達は馬車で旅をしていた。


 ラスト=ピアから馬車で南へ六日間ほど。


「ふう。ここがバルティカ地方ね──」


「そうみたいだニャ」


 ミットの言葉通り、私達は「バルティカ地方」へと行くことになった。

 先日のロンメルの指令、それはバルティカ地方へのことだった。


 何でも先日ハーゲンやハイドとのつながりがあったデヴィルズ商会。そことこのバルティカの街と取引関係があるとのことだ。

 しかしそれ以外何もわからない。


 だから私達三人。それからこの地方出身のフォッシュに白羽の歯が立ったということだ。



 そして私達はしばらく馬車に引かれ、バルティカへとたどり着く。


 ここはリムランド王国でもはずれにある存在。おまけに最近までリムランドでも最貧国といわれただけあって、ラストピアと比べると街並みがどこか貧しい。



 いろいろな亜人の人が街を歩いている。

 たわいもない話をしていたり、肩を組んで仲良さそうに歩いていたり……。


 亜人の中には、長年殺し合いをしていたり、争っていたりしている人たちもいたけれど、この街ではそんなことにはなっていなさそうだ。


 そしてバルティカの中でもひときわ目立つ建物へと向かって言う。


「センドラー様、あれがバルティカの王宮のようです」



「そうみたいだニャ」


「わかったわ。行ってみましょう」


 そして私達はその王宮へ。


 辿り着くとそこにはラストピアと比べると一回り小さい作りの王宮。


 白亜ではなくどこか薄汚れていたり、形が整っていなかったり、簡素に造られていて、ラストピアと比べると、どこか整備が行き届いていないように見える。


 入口から中を覗き見ると、やや雑然と作られていて雑多な花が飾られているお花畑。


 ラストピアやリムランドの物を見よう見まねで作ってみようといった感じに見える。


(地方にしてはまあまあっていった所ねぇ~~)


 センドラーがすましたような表情で見ている。

 まあ、地方は中央と比べて財政や国力基盤が貧弱だったりする。

 それがこういう所で目に見えてしまっているのだろう。

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