2章 二つの王国編
第42話 新たな出会い
エンゲルスとの事件が片付いて数か月後。
私は、以前よりも多忙な日々を送っていた。今日も資料がいっぱいある部屋で書類とご対面。
けれど、それだけじゃない。
「この件は、あなたに任せるわ。信じてるわよ、不正なんてしないって」
「わかりました。絶対、成功させます」
話しているのは、宮殿にいる官僚たち
彼らは、みんな私の新しい部下だ。この人たちの管理も、今の私の仕事だ。
周りの人たちに、うまく仕事を割り振ったり、そのためにここで働いている人の性格や特性を理解したり。
やることがいっぱいで、目がいっぱい。ライナやミットに手伝ってもらい、何とか仕事を回している。
当然、戸惑うことだってある。
「センドラー様。こちらの案件ですが、どうしましょうか」
「え?? ああ、これは後で私がやっておくわ。あなたはこの案件をお願い。街の貧困の状況についてよ」
「了解しました、センドラー様」
そう言って書類を受け取った役人の人はこの場を去っていった。
今までは個人プレーの仕事がほとんど。
しかしこの地位についてから周囲をまとめたり、頼みごとをするような仕事が中心になった。
だから部下たちの状況や気配りなどをしっかりとしなければいけない。そうしないと陰でどんな口をたたかれるかわからないからだ。
いままでとはまた違った役割が求められていると感じる。
そして、一人でいるときは見えてこなかったラストピアの現状についてもよくわかってきた。
「ハァ~~、なんかやる気がねぇなぁ」
私を見るなり、だるそうな態度で愚痴を吐いてくる人物が一人。
「まあまあ、仕事なんですから。頑張りましょう」
私は作り笑顔をしながら言葉を返す。
小太りで髪が薄い中年の人。
ラストピアの公共事業などを担当しているジイドさんだ。
「ったくよぉ。俺がリムランドにいたときは、もっと大きい仕事を担っていたんだよぉ。国の運命がかかった運河づくりの一大プロジェクトとかさぁ」
そしてジイドさんは葉巻を吸いながら愚痴を吐いてくる。正直こっちまで暗い気分になるからやめてほしいのだが。
「そ、そうなんですか。素晴らしいですね」
もめ事になるのも嫌なので適当な事を言っておだてる。
「けど周囲のやつらは節穴みたいな目ばかりしやがってよぉ。俺の功績を認めてくれないんだ。それでこんなラストピアみたいなへんぴな場所に行く羽目になっちまってよぉ」
この人はことあるごとにリムランドでの成果を自慢してくる。俺は大活躍していたと、悪いのは認めてくれない周囲だと。
「全く。この街は耳クソばかりの仕事ばっかりでやる気が出ねぇぜ」
そしてジイドは背中をかきながら別の部屋へと向かっていった。
(まったくもう、あの人は他に言う言葉が無いのかしらねぇ、秋乃)
センドラーもその姿にすっかりあきれ顔だ。
私はラストピアにいたから知っている。ジイドははっきり言ってこいつは使えない無能だ。
それも無能なだけではない。自分が有能だと思い込んで必要以上に成果欲しさから周囲に首を突っ込み自分の考えをごり押ししていたのだ。
無茶苦茶な命令ばかりして現場を困らせていた。おまけにそのせいで損害を出しても現場が悪いと言い張る始末。
そしてあまりの使えなさに王国がしびれを切らし、このラストピアへと左遷させたのだ。
そもそも本当に有能であれば、リムランドの人間たちが話さない。
ここにリムランドから来た時点で、能力に難があり無能であるとの証拠だ。
全く能力が足りない。けれど家柄のこともあり首にする事ができない。
このラストピアというのは、そんな人物の左遷先でもあるのだ。
そんな人たちとも、うまくやっていかないといけないのだから大変大変。
そしてしばらく仕事を続けていると、お昼の時間。
まず現れたのはミットとライナ。
「センドラー様、お昼ですね」
「そうだニャ。食べに来たにゃ」
「そうねライナ、ミット。あっ、メイドの人来たみたいだよ」
部屋にメイドの人がやってきて、食事の準備を始めた。もちろん私も手伝い、注文した通り四人分のセットが完了。
そう、四人分だ。注文ミスではない。
──トントン。
誰かが扉をノックして入ってくる。やってきたみたいだ、私が呼んだ人が
「センドラー様、遅れて申し訳ありませんでした」
「ああ大丈夫だよフォッシュ。今準備が終わった所だから」
別の部屋で作業を手伝ってもらっていた。クリーム色の整ったロングヘア。私と同年代くらいの女の人。
そしてエルフの象徴である長い耳。このラストピアの宮殿で政務を携わっている官僚の一人、フォッシュだ。
彼女は地方領主の家系の一人。高い政務能力をかわれてこのラストピアで仕事をしている。
政務能力の高さもさることながら、人柄もいいうえに腐敗もない。私が高く評価している人物の一人だ。
「フォッシュさん。いい機会だから一緒にお昼食べない?」
昨日。たまたま彼女と出会った時、話があるから一緒に食事がしたいと誘った。
フォッシュは戸惑いこそあったものの、了承。
今日は、彼女も含めて三人で食事をとることとなったのだ。
紅茶と塩で味付けされたサラダ、パンと鳥の燻製だ。
そして食事をしながら私はフォッシュに話しかける。
「フォッシュさん。仕事の調子とかどう。何か悩みとかある」
「悩み、ですかねぇ……。センドラー様──」
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