第35話 理由
エンゲルスやハイド達の行為。
すぐに本国、リムランドへと伝わった。
敵対している組織、魔王軍との癒着行為。これは大変重罪だ。何しろ敵対勢力と強く結びついていたうえに、邪魔だと思っていた私達に冤罪をかけて追い出そうとしたのだ。
エンゲルスやハーゲンなどは重い罪に問われ、リムランドの職を解任、左遷されることとなった。
そう、行先は極寒の地シベリナ。そこで事務作業などに従事するらしい。流石に身分のこともあり、過酷な労働にはならなかったが、二度とラストピアや、政治の表舞台に戻ってくることはないだろう。
その後も、余罪の追及や事件の真相などを行った。
結論、他にもいろいろしていた。
この件で罪に問が発覚し、大なり小なり処罰を食らった貴族や役人たちは百人ほどになるという。
私はこの国がここまでひどくなっていたのかと思いため息をついた。
それから、そいつらの処罰や、人事の変更や手続き。
かなり時間が経ってしまった。
そんな事を続けること一月ほど──。
「やあセンドラー。無実が晴れてよかったね」
「ええ、これからもよろしくね」
私の部屋の前。
今日はエンゲルスと業務の引継ぎにやってきた
ロンメルもこの場に現れ、気さくに挨拶。
そして宮殿の階段を上がり、エンゲルスの部屋へ。
コンコンとノックをした後、中へ入る。
「約束の時間よ。用意はいいかしら、エンゲルス」
「──ふぅ。わかった、ちょっと待ってくれ」
エンゲルスは手に持っていた書類の束を机に置くと、引き出しから別の書類を取り出した。
その姿もこの場の光景も、以前とは全く異なるものだった。
エンゲルスの素振りはどこかあわただしく、部屋の隅にはいくつかの木箱。この場を去るため、荷物をまとめているのだろう。
そして顔つき。綺麗な顔つきではあるのだが、目にクマができていて、痩せこけている。
自業自得ではあるが、いろいろあって疲れているような気がする。
あわただしく書類の束を持ちながら部屋の真ん中にあるソファーへと移動。
「座りたまえ──」
「はい」
言葉通り、私達は隣り合わせに柔らかいソファーに座る。
「──私の処遇はわかっているな?」
「ああ姉さん。行くんだね、シベリナに──」
ロンメルの、重苦しそうな言葉。
そう、今回の一件でエンゲルスはラスト=ピアからの追放が決定。
新たな国王として弟のロンメルが選ばれた。
血筋を考えれば、妥当な選択。
そして私はその下で指導役として、ラスト=ピアでロンメルの政策や命令を遂行する役割を与えられたのだ。
正直、私もセンドラーも、国のトップをやってうまくいくとは思えない。
私は政治的な駆け引きがうまくないし、センドラーは正義感が強すぎて周囲と衝突を不必要に繰り返してしまうからだ。
それなら、国をまとめるのはロンメルに任せ、私はその右腕としてその下で働くようにした方がいい。
そして引継ぎが始まる。今行っている事業や周囲との関係。外交方針などの書類を受け取り、その説明を受ける。
私もロンメルも、重要なことはノートに記録ししっかりと引継ぎを行う。
ここら辺をしっかりやっていかないと、以前から国として続けていた行いが途切れてしまう可能性がある。
そしてそれが原因で混乱が生じてしまえば人々は私達への支持をなくし、中にはエンゲルの時の方が良かったという声まで現れてしまうからだ。
説明を受けるだけでなく、気になったところを聞いたりもする。おかげで二、三時間もかかってしまった。
エンゲルスはそっぽを向き、ため息をついて一言。
「ふぅ──とりあえず、こんなところだ」
「まあ、聞きたいところも聞けたしこれに関してはもういいわ」
「それでは、ここでお──」
「待って、まだ大事なことを聞いていないわ」
私はエンゲルスの言葉を遮り、質問をする。エンゲルスはあっけに取られたかのような表情になる。
「まだ、聞き足りないというのか?」
「いいえ。どうしてあなたがこんなことをしたのか──それを教えてほしいの」
私の真剣な表情。エンゲルスは、何かをあきらめたかのように少しの間目をつぶる。
そして銀でできた大きい銀器から紅茶をカップに出す、三人分。
「取りあえず飲みたまえ」
とういう事かと私とロンメルは互いに顔を見合わせる。するとエンゲルスは紅茶を片手に立ち歩き始め、窓のそばに移動。外の景色を見ながら話し始める。
これは私が国王になる前、父が国王だったとき、私が補佐役をしていた時からの話だ。
「数年前から、このラストピアの財政は危機的状況になった。相次ぐ難民の流入。魔王軍や他国との緊張による軍事費の増大──」
「聞いた事はあるよ。姉さん」
「気が付けば国の借金はどんどん膨らんでいき、自分たちだけではどうにもならなくなってしまった」
エンゲルスの肩が、震えている。よほど思い出したくないのだろう。
ああ、リムランドでも話題になっていたわね。議会で何とか助け船を出せないかって──。
「そして、そんな私達に金をくれると言って手をさし伸ばしてきたのが──」
「魔王軍ってことね」
その言葉に後ろのセンドラーが反応する。呆れたような言葉使い。
資金に困っているやつらを見つけると、すぐに闇の商会を通して取引を持ち掛ける。
そして人様なお金を提供する代わりに自分たちの影響を持った人物を組織内に入れさせる。
その人物を通して自分たちに有利な政策と取らせたり、違法な薬物をドンドン取引させたりしているのだ。
最初は資金のため一時的に取引にしたのだろう。しかし、アイツらは常に見返りを要求している。
なのでどんどん癒着が深まり、気が付けば魔王軍なしでは国が立ち行かなくなってしまう。
こうやって彼らは国や軍団を支配していくのだ。
エンゲルスは苦々しい、後悔を感じさせるような表情でさらに話を進めていく。
本心では、なかったのがわかる。
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