第5話 ようやくの、私の好物



 帰り道、私は歩きながら考え事。


 ──心配だ。なんていうか、態度が粗暴でチンピラみたい。

 仲間への態度もおよそいいものとは思えないし、なんだか不安になってきたな。

 おまけに奴隷は女の子ばっかり、イメージ最悪よ。


(私も同感だわぁ秋乃。こいつがウェルナー家の直轄になったら、家の格が落ちると思うわぁ)


 そして街中にて──。



「センドラー様、僕はこのまま宮殿へと帰るけど、センドラー様はどうするんだい?」


「ごめん、私寄りたい所があるの。じゃあここでお別れになるわね」


「そうかい。じゃあまた会おう、またね」






 そして私はロンメルたちと別れ一人繁華街へ。


(んで、用事って何なのぉ。男遊びでもしてスキャンダルのえさにでもなるつもりぃ?)


(違う違う。小腹が空いたし、寄りたいところがあるの。あの店よ、一緒に食べましょう)


(ああ、あの店ね。良いわよぉ、けど私にも味合わせてもらうわぁ)


(OKOK!)


 そんなノリノリな会話をしながら街を歩く。


 にぎやかでいろいろな商品を売っている露店が連なる繁華街。

 いろいろな動物の干し肉や、珍しいお菓子、


 普通の人間だけじゃなくてうさ耳や犬耳をした亜人など、王都というだけあって多種多様な人種が暮らしていた。

 そんな繁華街を進んでいく。



「あっ、今日はやってるじゃない」


 繁華街の中、クレープの屋台を見つける。

 確か、センドラーはここの屋台のクレープが好きでよくここで買って歩きながら食べているのだ。


(お腹がすいたから、ちょっとクレープ食べましょ)


 心なしか、表情が穏やかになった気がする。やっぱりおいしいものを食べると彼女も機嫌がよくなるのか。



 そして私はセンドラーの言う通りクレープ屋の屋台に並ぶ。二、三人並んでいて、その後ろに立った後、考え込む。


 今までは何も考えずただクリームのクレープを買っていた。しかし、元の記憶が戻った私ならここで頼む味なんて一つしかない。


 そして心の中で話しかける。


「今日だけなんだけどさ、お勧めしたい味があるんだけどいい?」


(まあ、今日だけならいいわ。何がいいのぉ?)


 よっしゃ。OKしてくれた。すっげぇ。そんな会話をしていると列が空き、私が先頭になる。

 心の中でガッツポーズをした後、一つの味を指さす。


「チョコミントよ。これすっごくおいしいのよ」


 私は大のチョコミント好きだったのだ。幼いころからの大好物。この世界でも食べられるなんて本当に夢のようだ。


「今日は珍しいねぇ、チョコミントなんて」


「まあね、たまにはこういうのもいいかなって」


 常連客だけあって、店主さんとも雑談を交える関係になっている。


 それだけにいつもと違う味を選んだことに少し驚いているようだ。


「わかったよ。ちょっと癖があるけど、嬢ちゃんの口に合うといいな」



 そしておじさんはクレープを焼いた後その生地にチョコミントのクリームに薄く切ったバナナを詰める。それからくるりと生地を丸めて完成。


 私は代金を支払いクレープを受け取る。久々に見たチョコミント。緑色のクリーム。早く口に入れてあのおいしい味を口の中いっぱいに味わいたい。


 けどまずはセンドラーに食べさせてあげよう。


「はい交代。絶対においしいから食べてみてよ。」


「いいの? 大好物なんでしょ」


「けど、センドラーにもこの美味しさを味わってほしいし──。絶対気に入るから。次パフェを食べるときは、チョコミントを選ぶようになっているわ。だから早く早く」



「──ありがとう。ではいただくとするわ」


「さあ、食べてみて食べてみて。絶対においしいから」


 私の強い押しにセンドラーは少し警戒するものの、そっとクレープに口をつける。

 クリームを口の中に入れた次の瞬間、驚いて口を押え、クリームを口の中で転がし始めた。


 チョコミントの魅力、わかってくれたかな?


「ねっ、チョコミントおいしいでしょ!」


 そしてセンドラーは私の質問に答えず早歩きでクレープ屋へと直行。そして──。


「おばさん、これ歯磨き粉と間違えてるわよぉ。交換してちょうだい」


 グサッ──。


 歯磨き粉。それはチョコミントを愛する者にとって一番精神的にダメージを受ける言葉だ。


「えっあなたこんな歯磨き粉みたいな味が好みなのぉ? 変わってるわねぇ」


 グサッ!



「えっ、あなたこんな歯磨き粉をおいしいと思ってありがたがっているのぉ? 舌がおかしいんじゃないのぉ」


「歯磨き粉を歯磨き粉って言って何が悪いのよ。こんな歯磨き粉より普通の生クリームの方がはるかにおいしいわ」


 グサッ、グサッ、グサッ!


 歯磨き粉という言葉が彼女から発せられるたびに私の心が少しずつえぐり取られていくのを感じる。


「まあ、まずいというわけではないわ。けれで、あの甘いクリームを捨ててまで食べようとは思わないわね」


 センドラーの言葉に何とも言えない感情になる。


 まあ、チョコミントが万人受けしにくい人を選ぶ味だということは認める。無理強いしてチョコミント嫌いになってしまうのも、嫌いなものを進めるのも好きじゃない


(わかったわよ。あなたと一緒に食べるときはチョコミントは食べないことにするわ)


(ありがとう。けれど、たまに食べるなら許可するわぁ、あなただって食べたいものはあるんだろうし)


(えっ、じゃあそのときは遠慮せずにいただくわ)




 センドラーとだってうまくやっていかなければいけない。正直、彼女は元の私とは正反対の性格だ。


 感情というものを理解しないし、周囲と打ち解けたり、意見を調整したりすることができない。


 どんな時も自分の意見を押し付けてばかり。だからこそ周囲から疎まれ追放されてしまったのだ。


 しかしそれは、正義感が強く、周囲の感情に惑わされない判断ができる。目先の感情に惑わされず、何が必要かを見極めることができるということでもある。


 彼女の欠点は、私が補ってあげればいい。私の足りないところは、センドラーなら補える。


 互いに長所を出し合って、上手くいくといいな。


 そんな思いを胸に、私達は宮殿へと帰っていった。




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