第9話
「ど、どういうことだい。篠崎さん」
大道が驚いた様子で篠崎に言った。
「そうよっ! どうして私が!?」
飯田は錯乱した様子で篠崎を問い詰めた。
「落ち着いてください。それに飯田さん。あなたにとっても悪い話じゃないはずです」
篠崎はそう言いながら飯田を見る。茶色の髪に、派手なピアス。ネックレスに、指輪。厚く施された化粧。いかにも遊んでいそうな、34歳の女性であった。
「神楽坂さんの死体は、死後約6時間経っています。午前9時から6時間前というと、深夜3時頃。殺害が行われたのがこの場所かどうかは分かりませんが、いずれにせよ、犯人は真夜中にかなりの労働を行っています。加えて、私を先ほど襲ったのが女性。右利きです」
さて、と篠崎は一区切り付けた。
「飯田さん。私の観察によるとあなたは右利きであり、かなり疲弊していますね。それに私が聞いた声に最も似ている気がします。私のプロファイリングに最も近いのが、あなたです」
「ちょっと待ってよ! たったそれだけの理由で犯人扱い!? 嘘でしょ!?」
飯田は篠崎の言葉を遮るように言った。
「落ち着いて下さい。もちろん、確証はありません。ですが、これはあなたにとっても、そして我々にとっても都合の良い提案なのです」
「私にとっても……?」
飯田は、どうやら篠崎に犯人扱いされていないことに気がついて、少しだけ平静を取り戻した。
「良いですか。これから殺人が起きる訳です。この中の誰かが犯人で、誰かが死ぬ。私は今のところ、飯田さんが犯人である可能性が高いと考えていますが、現時点で確証はありません。ですが、あなたを監禁して殺人が起きなければ我々の勝ち。殺人が起きれば、我々は容疑者を一人減らすことができる。そしてもし殺人が起きる場合、監禁されているあなたが最も安全ということです」
なるほど、と頷いたのは大道であった。
「22時以降ならともかく、それより前の時間帯であれば彼女の部屋に一人か二人監視を付かせる。見張りがいる以上、常に誰かと一緒にいるということだから、監視されている人が最も安全なのは確かだろう」
大道の解説によって、ようやく飯田は納得をしたようであった。
「分かった。監禁されてあげる。それに確かに私は疲れているし、早く部屋に一人になりたいしね。でもトイレには行かせて欲しいし、飲み物や食べ物とか、そういった世話はしてくれないと困るわよ」
渋々といった感じで、彼女は了承したのであった。
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