第2話
「この送り主は、間違いなく人を殺したがっている。殺したい相手は、招待客の誰か。もしくは全員だ」
シャロが言うと、篠崎は神楽坂の方を見た。
「警察に通報せず、この送り主の指示に従う。ということは、あなたには暴かれたくない罪があって、従わざるを得ない状況だということですね」
篠崎の問いに、神楽坂は目を伏せた。
「はい。その通りです」
「私やシャロが協力しなくとも、あなたはやはり指示に従いますか」
「はい」
「そこで死ぬようなことがあっても?」
「はい」
篠崎は問答を止めて、背もたれに寄りかかった。ふう、と息を吐いた後、ちらりと神楽坂の手元を見る。左薬指には、指輪がはめられている。次に席に置かれたハンドバッグを見る。高そうな、ブランド物のバッグである。
「あなたは、自分の罪が暴かれるのが怖いだけじゃない。例えば、潤沢な資産をふんだんに用いて、大切に育て上げた息子さんの罪、とか」
篠崎にそう言われると、神楽坂は気まずそうに目を背けた。
「その通りです。息子は本当に、本当に大切なんです。その息子のためなら、私はどうなっても構わない。たとえ私が死ぬようなことがあっても、それで息子が救われるのであれば」
白状するように神楽坂は言った。
「篠崎。君も分かっているんだろう。この犯人は、送った相手が自分の指示に従うことを確信して、こういった手紙を出している」
シャロが口を挟んだ。
「ああ、そうだね」
イライラしたように、篠崎は言った。
「分かった。引き受けよう。この犯人はシャロにも手紙を送った。つまり私は、シャロの代役として現地に向かえば良い」
「おお、そうか! うむ、さすがは篠崎だ!」
シャロが嬉しそうに言った時であった。店員がバニラアイスを持ってきて、テーブルに置いた。
「おお、きたきた!」
シャロはそのバニラアイスを自分の元へ寄せた。
「良いのかシャロ。たしか、バニラアイスはワトソン君に止められていたような。彼女もすぐ近くにいるんだろう?」
篠崎が怪訝な顔で言った。
「ああ、ワトソンなら撒いてきたのだ」
「おいおい、そんなことをして大丈夫なのか」
「大丈夫だ。大体、なぜバニラアイスを食べてはならないのか。意味不明なのだ!」
「理由があるから、止めているんじゃないのか」
篠崎がそう言ったが、その時には既にシャロは、バニラアイスをスプーンでひと掬いし、口に運んでいた。
「あーむっ。んん、うんまぁい!」
嬉しそうに、頬に手を押さえるシャロ。そしてシャロはさらに、パクリパクリとアイスを食べる。
「んん……ヒックッ」
シャロの様子に異変が起きる。頬を真っ赤に染め、しゃっくりを起こし始め、目は虚ろになっていた。
「お、おいシャロ。大丈夫か」
心配そうに、篠崎は言った。
「うるさぁい! 大丈夫なのだぁ~、ガハハハ!」
シャロの言動が明らかに変わって、隣に座っていた神楽坂も心配そうにシャロを見つめた。
「参ったな。完全に酔っ払っている。だからワトソンは止めていたんだ」
篠崎は困ったように、シャロを見つめた。
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