番外編1:篠﨑瀬奈と怪盗パンドラ~Mark the bullet~

第1話

 時計の針は、ゲームのタイムリミットを刻々と指し示す。




 時は遡って、6月20日。怪盗パンドラがファンタジーランドで怪盗行為を行った後日の昼過ぎ頃。


 ファミレスの自動ドアが開いた。入ってきたのは、黒髪ロングの女性。白シャツに黒のスラックス。そして黒レザーのハンドバッグというシンプルなスタイル。大人びた、綺麗な女性であった。


 彼女は店内の奥を進み、窓際の4人掛けの席に向かった。そこには既に二人の人物が座っていた。一人は金髪の少女。シャロである。そしてもう一人は、30代後半と思しき女性であった。二人は片側の席に、二人並んで座っていた。


「篠崎! 待っていたのだっ!」


 シャロは元気よく彼女の名を呼んだ。篠崎はシャロとその女性に向き合う形で、席に座った。


「シャロ。この方は?」


 篠崎はすぐにその見知らぬ女性について尋ねた。ウェーブが掛けられたセミロングの茶髪。厚く施された化粧に、うっすらとほうれい線が浮き出ている。首には高そうなネックレスが掛けられていて、服は白に黒のラインが入ったワンピースを着ていた。


「依頼人だ。実は今朝、私宛にこんな物が届いてね」


 シャロはそう言って、懐から白いカードのような物を取り出した。そのカードには文字が書かれている。以下はその原文である。


”6月21日9時。パンドラの箱は開かれた。咎人共の被害者が、彼らに裁きを下すだろう”


 まさに、怪盗パンドラの犯行予告状であった。


「裁きを下す、ね。ずいぶんと物騒だな」


 篠崎は率直な感想を述べた。


「そしてそこにいる依頼人にも、同じ物が届いてね」


 シャロは顎でその依頼人に促した。


「初めまして。神楽坂かぐらざか 智子ともこと申します。それでこちらが、先週届いた物でして」


 神楽坂はそう言いながら、懐からやはり白いカードのような物を取り出した。そして同じように、文章が記されている。以下はその原文である。


”6月21日9時。パンドラの箱は開かれた。罪を知る者が、あなたの心臓を頂戴致します”


 神楽坂は、それとは別にもう一枚、紙をテーブルに置いた。そこにも文章が書かれている。以下はその原文である。


”下記の日時に、指定された場所に来て下さい。殺人ゲームを開始します。ゲームに勝利した場合は、あなたは許されます。また、12日分の着替えを用意しておくこと。警察に通報しないこと。ゲームに不参加、または指示に従わなかった場合は、あなたの罪が暴かれることになります”


 そしてその文章の後に、日時と住所が記されていた。


 その文章を読んだ篠崎の目つきは、少し険しくなった。


「まあ、ご覧の通りだよ。この送り主はどう考えても怪盗パンドラではない」


 シャロはそう言ってパイプを吸った。


「まあ、そうみたいだね」


 篠崎が同調する。


「そこで、私はこの依頼を断ろうと思う。代わりに篠崎、君が請けたまえ」

「おいおい。ずいぶんと自分勝手じゃないか。どうして私が」

「そりゃあ、この依頼は危険だからな。私は死にたくない」

「私だって死にたくないよ。君の言う通り、この依頼は危険だ。私だって断りたい」

「人が死んでも、かな?」


 シャロの言葉に、篠崎は沈黙した。彼女の目つきは、より一層険しくなった。

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