第3話
その後も体育祭は順調に進行した。お昼休みを挟んで、競技の内容も白熱したものになっていく。
『次の競技は、台風の目です』
アナウンスが響く。台風の目とは、長い棒を5人が持って一緒に走る競技である。途中でコーンが設置されていて、それを基準に上手く旋回して元の場所に辿り着く必要がある。その旋回を上手くするのに技量が必要で、差が出やすい競技だ。
歩世とシャロがその出場選手であった。二人は入場門にて待機している。
「なあ瑠華。一つゲームをしようではないか」
「何、ゲームだと?」
隣にいるシャロの言葉に、歩世は嫌な予感がした。
『選手は入場してください』
アナウンスが響いて、入場のBGMが鳴った。選手たちは足取りを揃えて所定の位置へ向かう。歩世とシャロも例外ではない。
「篠崎へのプレゼントだが、私が盗んでやった」
「はぁ!? 何だと!?」
入場をしながら、歩世はシャロに怒鳴った。
「パンドラの箱は開かれたってことだ。ガハハ!」
「喧しいわ!」
そうこうしている内に、所定の位置まで辿り着いた。目の前には、白いビニールテープが巻かれた竹素材の棒が配置してある。遠くには白いコーンも見えた。
「それで、お前は何がしたいんだ」
歩世は言った。ピッピと笛が鳴って、それに合わせて歩世とシャロ、その他のメンバーが棒を持って構える。
「位置について」
端にいる生徒がスターターピストルを頭上に構えた。
「用意」
直後、炸裂音が響き渡った。シャロと歩世たちは棒を持ちながらダッシュする。
「はっ、はっ、そのプレゼントをだなっ、はっ、はっ」
走りながら、シャロは歩世に言う。
「とある場所にだなっ、はっ、はっ」
コーンに差し掛かった。棒の端を持つ人を起点に、ぐるりと回転。上々の出来でターンすることに成功した。
「隠したから、見つけ出したまえ!」
棒を次の5人に渡して、歩世とシャロは列の後ろに移動した。
「なんでそんなことをする」
「ふんっ。別に君が私以外の女に現を抜かすから、ヤキモチを焼いている訳ではない。決してそうではないのだ!」
ヤキモチを焼いていると自白しているようなもので、歩世は呆れた。
「期限は体育祭が終わるまで。それが過ぎてしまうと、取り返しが付かなくなってしまうので注意するんだぞ。そして、それこそがヒントである」
「うん……? つまり時間が経つと自動的に何かが起こる場所に隠したってことか。あっ、おい、まさかっ!?」
ハッとしたような表情で歩世はシャロを見つめた。
「ふん、さあな」
とシャロは適当に返事をした。歩世は舌打ちを一つして、学校の方へ走っていく。
「ガハハ! 一体、何を勘違いしたのか。おおよそ篠崎の鞄やロッカーに隠したとでも思っているのかな。確かに体育祭が終わったら彼女は教室に戻るわけだから、プレゼントに気付かれて取り返しが付かなくなる訳だ」
なんて呟きながら、シャロは走って遠くなっていく歩世を見つめる。
「たまには翻弄する側になるのも、面白いものだ」
ガハハ、とシャロは豪快に笑った。
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