第8話

 両手を挙げるパンドラを、ポカンと見つめるシャロ。


「え、マジ……!? ウッヒョー! パンドラ相手に勝っちゃった!」


 やがて彼女は、パンドラの降参に大喜びした。


「なあなあ、ゲームのルール覚えているよなあ?」

「ああ、覚えているよ。敗者は勝者の言うことを、何でも聞く」

「じゃあじゃあ、今この場には私と君しかいない。そうだな?」

「ああ、そうだな」


 怪盗パンドラが肯定すると、シャロはムフフンと厭らしく口角を釣り上げた。


「では私を、その……ギュッと抱きしめてくれっ!」


 意を決して、シャロは言った。彼女の頬は、仄かに紅い。


「……」

「何だ押し黙って。嫌なのか」

「いや。もっとエグいのを要求されるのかと」

「わ、私だって……いきなりそんなのは、嫌だ」


 より一層顔を紅くして、シャロは言った。普段の自信満々な彼女とは違って、よそよそしい。


「ふん。心配しなくとも、私が勝つ度にエスカレートしていくからな」


 やはり顔が紅いまま、シャロは言った。


「わかった。抱きしめれば、良いんだな」


 そう言ってパンドラはシャロを見つめた。小学6年生くらいの、小さな身体。胸の膨らみもそのくらい。肌は白くて、傷一つない。ほっぺたは子供らしく、モチモチと膨らんでいる。


 そんな彼女を抱きしめるのだと、パンドラは実感する。


(くそっ。俺だって、恥ずかしいよ……)


 パンドラはそう思いながら胸を押さえた。心臓の脈動が、手の平に伝わってくる。


「んん、はやくしろ」


 モジモジしてシャロは言った。そして、ゆっくりパンドラの胸に寄り掛かる。すると金髪の前髪と額の感触が、シャツの上から伝ってきた。


 パンドラはそっと腕を上げた。そしてその小さな身体を抱きしめた。


「ハァ、ハァ……」


 息を荒げるシャロ。パンドラは彼女を抱きしめるその腕から、体温を感じていた。荒げる息に合わせて、肩も上下しているのが伝ってくる。


「もっとだ。もっと、強く……」


 シャロはそんなことを言って、パンドラを力任せに抱き寄せた。するとシャロの膨らみ掛けの胸の感触まで、パンドラは感じ取ってしまう。


(ああ、やばい。どうしよう。めちゃくちゃ、心地良い)


 パンドラは内心で思ってしまう。


(このまま、離れたくない)


 そして彼も、力任せにシャロを抱きしめた。


「なあパンドラ。私は騙された警察を諭して、大勢で君を取り囲むことができた」


 シャロは耳元で囁いた。普段の豪快なシャロらしからぬ、落ち着いていて、そして甘ったるい声色であった。


「それをしなかったのは、このためだよ。君と存分にイチャイチャした後で、君を逃がすためだ」


 やがて二人は離れる。自身を包み込んでいた胸板が離れていく。シャロはその胸板を、愛おしげに見つめる。


「逃がしてくれるのか」


 パンドラは尋ねた。


「ああ。私は君と、もっと愛し合いたいのだ」


 そしてシャロはニカッと笑った。先ほどとはまた雰囲気の違う、いつも通りの、ハキハキとしたシャロであった。


「今宵は楽しかったな!」


 そしてシャロは言った。


「まあ、そうだな。楽しかったよ」


 不服そうな表情で、パンドラは言ったのだった。

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