第7話

 仙波は黙り、俯く。


「くっくっく」


 そして不適に笑った。


「お見事だ。名探偵」


 仙波、もとい怪盗パンドラはニヤリと笑う。


「テーマパークに妙なカラスが飛んでいたな。あれは君のペットか何かだろう。不自然に仙波を見ていた。あれの足にカメラでも付けて、仙波がどう動くか確認していたんだ。計画通りに獲物を偽物にすり替えるのか、そしてすり替えた獲物をどこに隠すかもなあ」

「ほう。そこまで気付いていたか。しかしどうする。見たところ君一人のようだな。であれば、この前のように眠らせるまでだ」

「ふん。それはどうかな」


 シャロはそう言うと、すうっと息を吸い込んだ。


「ワトリーヌ・グレイソン!」


 パンドラは驚いてシャロを見た。彼女の膝の上には、スマホが置いてある。


『はいっ!』


 スマホのスピーカーから、返事が流れた。


 パンドラは周囲を警戒する。近くにあるのは、海と、木々と、車道だけだ。テーマパークの方は特に木々が生い茂っており、視界が悪い。


「なあ、パンドラ。ファンタジーアイランドには、高さ100メートルから落下する絶叫アトラクションがある」

「なっ、まさか……」

「銃の達人は、こちらにもいるのだよ!」


 パンドラは片手でハンドルを握りながら、もう片方の手で双眼鏡を構えた。そして車窓から天高く聳える山を見た。絶叫マシンが落下するためのレールが引かれたその山の頂きに、彼女はいた。停電によりアトラクションが停止されているその場所で、彼女はスナイパーライフルを構えている。高所特有の強風に髪を靡かせ、周囲の仄かな明かりに眼光を煌めかせるその姿に、パンドラは恐怖を感じた。


――パァーン!


 放たれた弾丸が、車のタイヤを貫いた。すぐに車は制御不能になり、危なげなく停車した。


「くっ!」


 うめき声を上げるパンドラ。


「これで足は奪われた。すぐに移動は出来ない。であれば、ワトソンがクルーズ船スタッフに連絡をして、君を待ち受けることも出来るだろう。さあ、どうする」

「ならば君を眠らせた後で、誰かに変装してクルーズ船に乗るまで」

「ほう。であればワトソンに君の肩を撃ち抜いてもらおう。クルーズ船スタッフにも判りやすくなる。血まみれの奴が、パンドラだとね」


 押し黙るパンドラ。彼の額には、一筋の汗が垂れた。


 やがて……。


「参った。降参だ」


 両手を挙げたのだった。

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