第5話

「各警察官、スタッフへの連絡を完了しました」


 ワゴンカーにて、警察官が織田に言った。


「おつっす。しかしパレードが始まってかなりの時間が経ってしまったっすね」


 織田は顔をしかめてディスプレイを見つめた。そこには煌びやかにライトアップされた城と、愉快に踊る演者達が映し出されている。演者のほとんどが本人確認を済ますことが出来ずに、パレードの終盤に差し掛かっていた。


「間もなく、ラストシーンです。5、4、3、2、1」


 時刻は20時丁度。城に竜が現れた。巨大な体躯と、赤い眼光を輝かせて。


「獲物は無事です!」


 警察官の一人が言う。


「まだっす。すぐに勇者が出てくるっす!」


 織田が言う。直後、城に勇者が現れた。ゲームでありそうな剣と盾を構え、竜と対峙する。


 盛り上がるラストシーン。そこら中に設置されたビームライトが、勇者と竜を煌びやかに照らす。


「……あれは」


 シャロは煌めく竜を見て、小さな異変に気付いた。


「予告状によると、彼がパンドラなのでしょうか」

「さあ、どうかな」


 仙波の問いに、シャロは答えた。


『ビィー、ビビッ、ビィー……』


 ディスプレイのスピーカーから、奇妙な電子音が流れ始めた。


「織田君。何の音かね」

「分からないっす。どうやら、テーマパーク全域に流れた様っす」

「つまり全員に聞こえてしまっている訳か。となると……」


 シャロはディスプレイを見つめる。


『パンドラの箱を開けし愚者共。ご機嫌よう』


 テーマパークに流れた音声に、車内がざわついた。


「怪盗、パンドラぁ……!」


 シャロはニヤリと笑う。


『3、2、1……』


 怪盗パンドラのカウントダウンが、スピーカーから流れる。


『ゼロ』


 直後、テーマパーク全域が一斉に停電した。


「何事っすか!」


 織田が叫んだ。


「電気設備所から応答がありません!」


 警察官の一人が答えた。


「予備電源に切り替わります」


 間もなく、予備電源により停電は復旧した。


「得物は!」

「ありません!」


 その間、わずか十数秒。城に絡みつく竜は、盲目となってしまった。


「す、すみません。私は現地に」


 仙波は青ざめた表情を浮かべながら、車から降りて走っていった。


「電気設備所を確認したところ、爆破された痕跡がありました。また放送室も同様に、パンドラによって細工された模様です」


 警察官が報告した。


「なるほど。どれも本人確認が円滑に取れなくなった後で可能。そして最も怪しいのは、得物に一番近く、停電の間のわずか十数秒で犯行可能な、勇者役っす。全員、勇者役を確保っす!」


 織田警部が全員に通達した。


「それじゃあシャロっち! いっちょ怪盗パンドラを捕まえてくるっす! いっやぁ、怪盗パンドラを捕まえて、また昇級しちゃうなぁー! いやー、うめぇうめぇ!」


 織田警部は愉快にそう叫びながら、警察官を引き連れて、勇者の元へ向かった。


 織田警部がいなくなって、静まり返る車内。シャロはやがて、不適な笑みを浮かべた。


「彼は私を愛してくれた」


 静かな車内に、シャロの声が響き渡る。


「ならば私も、彼を愛さなければならない」


 シャロはそう言って、車から降りた。


「さあ、愛を営むとしよう」

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