第3話
翌日。つまり怪盗パンドラの犯行当日。
ファンタジーアイランドにて、シャロは織田たちと合流していた。
「シャロっち、これを付けてくださーい」
「シャロっちと言うな! うん、何だこれは」
織田が差し出したのは、腕時計型のデバイスだった。盤面が六角形のディスプレイには、デジタル表記で日時が表示されている。
「名付けて、腕時計型デバイス ”ヘキサ” !。先日、パンドラがセブンアイズの一人に変装して、我々はまんまと騙されてしまったっす。これはその対策っす」
シャロはそれを受け取ると、左手に身につけた。
「以後、我々はこれを利用して連絡するっす」
そして織田は、ヘキサの仕様を説明し始めた。
ヘキサの機能は二つ。通話とチャットがワンボタンで行える。ただし、このデバイスには認証システムが搭載されていて、それをパスしない限り利用できない。
認証は虹彩認証を採用している。利用者はデバイスを見るだけでロックが解除される。
「どうっすか? 光彩認証っすよ? バイオメトリクス認証っす! 格好良いっしょ?」
「生体認証は信頼性に欠けるが、まあ良いか」
織田は説明を再開した。
織田は親機を持っている。親機は子機へ一定間隔で認証を要求する。シャロを含む主要人物に渡した子機は、その都度に認証をしなくてはならない。認証をしない場合、親機を持つ織田の元に未認証デバイスが表示される。
認証要請は子機間でも可能である。変装の疑いがある関係者がいた場合、認証を要請しそれをパス出来るかどうかで本人確認が出来る。
「なるほど。もしパンドラがデバイスを盗んでも利用できず、また認証要請に応えなければ特定も出来てしまうという訳だ」
シャロは関心した様に言った。
「それだけじゃないっす。パンドラに人知れず気絶させられたスタッフがいた場合。その気絶させられたスタッフは認証要請に応えることが出来ないので、すぐに分かるっす」
なるほど、とシャロは頷いた。
「素晴らしいな。これは誰が考案したのだ?」
「俺っす!」
シャロはその言葉に、怪訝な表情を浮かべた。
「これを君が……?」
「はいっす! 中々良いモンを考えたっしょ?」
「ああ。あまりに素晴らしいものだから、君が考えたなんて信じられないよ」
シャロはそう言いながら、ヘキサの画面を見る。するとロック解除の表示がされた。
「織田君。試しに君へ認証要請をしてみよう」
シャロはデバイスを操作した。すると織田が身につけていたヘキサが鳴る。要請を受けてから認証まで所要時間は殆どない。すぐに認証完了の通知がシャロのヘキサに届いた。
「なるほど。これで君が織田警部本人だと証明された訳だ。便利だな」
「そうでしょ、そうでしょ! ただし、今回は生産が間に合わず、警察全員と一部スタッフ数分しか用意出来なかったっす。アルバイト等のスタッフの本人確認はこれまで通り手動で行う必要があるっす!」
「元々、常にスタッフ全員の本人確認なんて出来る訳がなかったのだ。充分だ」
シャロは城付近に停車してあるワゴンカーに案内された。車内には複数のディスプレイと、それに繋いであるパソコンが設置してある。
「さてシャロっち。パンドラがどうやって犯行に及ぶか、目星はついてるっすか?」
織田がシャロに言った。
「いや。昨日も此処に来て調べてみたのだが、妙な痕跡は見当たらなかった」
「一応、数時間前から城の内部と付近の調査をしているっすが、やはり痕跡は見当たらないッす」
「ふむ。しかしパンドラは細工なしで盗む方法を見いだしているかも知れない。油断するな」
「うぃーっす。それにしても珍しいっすよね。予告状が届いて犯行日時まで1日以上も間があるなんて。パンドラ絡みで事前調査が出来るなんて稀っすよ」
織田の言う通りだった。それには諸説あって、最も有力なのは持ち主が獲物を入手不能な状態にしてしまうことを防ぐためと言われている。パンドラが獲物とするのは、何かのイベントなどに使われるものが多い。だから直前に予告状を出してしまえば、そのイベントを中止したり、獲物自体をどこかに隠した場合のリスクが増えるという訳だ。
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