怪盗編2:盲目の竜

第1話

 それは歓喜に喚く人々を、静かに見下ろしていた。




 6月6日。


 ファンタジーアイランドとは、世界的に有名なテーマパークである。日本ではクルーズ船に乗って15分で着く孤島に建てられている。その孤島の中央には、ファンタジーアイランドのシンボルでもある、大きな城がある。


「ふむ。あれが予告状にあった竜か」


 クルーズ船から降りたシャロは、遠くに見える城を眺めた。聳え立つ城の外壁に、一匹の竜が絡みつくように居た。


「しかし良いのかシャロ。私たちも来てしまって」


 シャロの隣にいる篠崎が言った。


「なーに。今回は私個人が勝手に行う、ただの下見だ。社長の許可も取ってある」


 シャロは言った。


(こいつ。パンドラである俺の目の前で、堂々と下見とは)


 下見という言葉に、歩世は神妙な面持ちでシャロを見る。


 事の発端はこうだ。昨日、怪盗パンドラから予告状が届いた。以下は原文である。


"6月7日20時。パンドラの箱は開かれた。勇者に選ばれし我が幻影が、竜の瞳を頂戴致します"


 本日は6月6日。つまり明日の20時に、あの竜の瞳がパンドラによって奪われるということである。シャロはその対策の下見として、歩世と篠崎を誘ってファンタジーアイランドにやってきたのだ。


「シャーロ・クロック様。ようこそ、おいで下さいました」


 クルーズ船から降りてすぐの場所に、男が声を掛けてきた。小綺麗なスーツを着たその男は、短髪をワックスでテカテカに固めていた。そして飾り気の無い眼鏡を、右手でクイッと直す。


「すまない、仙波せんばさん。我が儘を聞いてもらって」


 シャロは愛想良く言った。


「紹介しよう。彼は仙波せんば たけしさん。ファンタジーアイランド社長の秘書である」

「初めまして仙波です。篠崎さんと、歩世さんですね。シャロ様の手伝いと伺っております」


 仙波は再度、右手でクイッと眼鏡を直した。


「セブンアイズの方が二人も。心強い限りです。手配したパスを使えば入場も出来ますし、アトラクションやフードコートも利用し放題ですので、用が済みましたらどうぞお楽しみ下さい」

「ああ、ありがとう」


 一連のやり取りを終えると、三人は城へ歩き出した。


(うん?)


 シャロは一羽のカラスを目で追った。そのカラスは設置してあったベンチに止まり、じっと仙波を見つめていることに気がついた。その仙波はスマホを耳に当て、何やら話しているようだ。


 それを見ていたシャロは、目を細めた。


「おい、シャロ」


 歩世がシャロを呼んだ。立ち止まっていたシャロは、二人を追いかけるように歩き出した。

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