第7話
案内された部屋でしばらく待っていると、間もなく閉じた扉からノックの音が響いてきた。
「ご主人様。お連れ致しました」
「わかった。通せ」
すると扉は開かれ、二名の男女が部屋に入ってきた。そしてシャロの向かいの席に座った。
シャロはまず男性の方を見た。
(ふむ。白髪混じりの灰色の髪、また肌の質から見て歳は40代前半。胸元の内ポケットの膨らみは恐らくタバコ。掌に、銃を扱う際にできるマメがある。その右手はズボンのポケット付近に常にある。そのポケットの中身は、恐らく拳銃)
次にシャロは女性の方を観察した。
(茶色の短髪。手のシワ、それと自然に見えるが、かなり手の込んだメイク。そして際どく、薄くて赤いドレスを着るセンスから、恐らく30代前半といったところか。しかしそのセンスに不釣り合いな短髪は、長髪が仕事で不都合だからか。つまり見た目が重要な仕事をしている。メイクの技量もそれを裏付けている)
シャロが観察していると、男性の一人が口を開いた。
「へえ。こいつが件のセブンアイズか」
無精髭を触りながら、男性は言った。
「やだ、結構可愛いじゃない」
嬉しそうに女性は言った。
「さて紹介しよう。まずは執事の
そして歩世は、シャロをジロリと見た。
「怪盗パンドラの一味である」
彼はそう言った直後、おもむろに右手を掲げてパチンと指を鳴らした。軽快な音が室内に響き渡った瞬間、彼の姿はまるで手品のように一瞬で姿を変えた。
黒いシルクハットを被り、片眼鏡を身に付け、黒いタキシードとマントを見に纏い、そして右手には黒いステッキを持っている。まさしく、怪盗パンドラの正装である。
「は、ははは……」
さすがのシャロであっても、驚いた様子であった。
「柊は情報収集担当だ。彼は様々なコネを持っていてね。柊の情報で何を、いつ、どのように盗むのかを決める。伊達は銃の扱いに長けている。狙撃も得意だ」
「薄明かりの中、タルタロスの手錠を銃で撃ち落としたのは君だな」
シャロは伊達を見た。
「ああそうだよ。俺が撃った。あの時は一発でも当てれば良かったからな。楽な仕事さ」
フッと伊達は笑った。
「そこの皇とかいう女は、パンドラ以外の変装要員だな」
「ええそうよ。変装が必要ない場合は、細工を手伝ったりしているわ。あとは、ハニートラップとかもね」
ニッコリと皇は笑う。
(二人とも私服の様だが、雨で濡れた形跡が見当たらない。乾くほど長く此処に居たのか、あるいは住んでいるのか)
怪盗パンドラは一通りの説明を終えた。するとシャロに向き直り、仰々しく両手を広げた。
「さあ、手の内は明かした。シャロ。我々の怪盗行為を、見事に防いでみたまえ」
怪盗パンドラはそう言ってシャロを見つめた。彼だけではない。柊、伊達、皇。それぞれがシャロを見つめる。それはまるで格好の獲物を狩ろうと身構える、肉食獣のようであった。
ガタン、とシャロは立ち上がる。そしてその獰猛なオレンジ瞳を、怪盗パンドラに向けた。
「良いだろう。その舐めた真似、後悔させてやる」
シャロはビシッと怪盗パンドラに向けて指をさす。
「怪盗、パンドラぁ!」
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