第6話

 その日の放課後は雨が降っていた。


「しまった。傘を忘れてしまった」


 学校の玄関から外を眺めるシャロは、そう呟いた。そんなシャロをよそに、歩世は傘置きから傘を持ってくる。


「おお。瑠華は持ってきていたのか。丁度良い。一緒に入れてくれたまえ!」


 シャロはそう言って有無を言わさずに、瑠華の隣へ強引に立った。


「まだ入れてやるなんて言ってないが」


 しかめた顔で言う歩世。


「気にするな。私たちは恋人同士ではないか。ウッヒッヒ」

「恋人同士は嘘だし、気持ち悪い笑い方になってるぞ」


 そんなこんなで学校を出た歩世とシャロ。曇天の空の下。雨音と、車が通り過ぎていく音。タイヤが水を弾く音が響く。


 やはり恥ずかしいのだろう。相合傘により、二人の頰は若干紅い。


 シャロは小柄だから、傘からはみ出て濡れるなんてことはない。一方で歩世の片方の肩は少しはみ出していて、その部分がぐっしょりと濡れていた。


「それにしても意外だったぞ。瑠華から家に誘ってくれるなんてな」


 シャロはニヤニヤしながら歩世の方を向いた。


「やはり、怪盗ゲームの話かな」

「まあ、そんなところだよ」


 前を向いたまま、歩世は肯定した。


「着いてからのお楽しみだ」


 道路の反対側を、傘をさした自転車が通り過ぎて行く。


「そりゃ楽しみだ。ガハハ!」


 シャロは曇天を吹き飛ばすかの如く笑った。


 数分後。住宅街の中から一際豪華な洋館が見えた。広い庭と、それを取り囲むように設置された塀もあった。


「ほう。さすが大怪盗。立派な家だな」


 シャロは楽しそうに歩世の家を観察した。


 大きな門の前に二人は立った。すると閉じていた門が、自動的に開いていく。


「なるほど。瑠華の顔の認証で開いたのか。セキュリティもバッチリという訳だ」

「そうだ。だから侵入なんて考えるんじゃないぞ」


 シャロならやりかねないと、歩世は思っていたのだった。


 門をくぐり、庭を進む。すると洋館とその玄関が見えてきた。歩世は玄関を開く。その先は洋館と呼ぶにふさわしい、エントランスホールといった感じの開けた場所になっていた。部屋の両サイドにはそれぞれ二階に続くカーブ階段が設置してある。


「お帰りなさいませ、ご主人様」


 玄関のすぐ近くには年老いた執事と思しき人物が立っていた。小綺麗な黒のスーツ姿の彼は、歩世のことをご主人様と呼んでいる。


「ああ、ただいま。ひいらぎ


 柊と呼ばれた執事は、シャロのことを見る。


「シャーロ・クロック様ですね。ようこそ、いらっしゃいました」


 少し、しわがれた様な声でシャロに言った。


「挨拶はいい。皆を呼んできてくれ」

「はい。かしこまりました」


 歩世の指示により、柊はとある部屋に向かって行った。


「シャロ。俺たちはこっちだ」


 そう言って歩世はとある部屋に案内した。そこは中央に長いテーブルと椅子が設置してあった。部屋の端には暖炉もある。シャロはそのテーブルに置いてある椅子の一つに腰掛けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る