第4話

――カツリ、カツリ……。


 スピーカーから足音が鳴る。それに合わせて、怪盗パンドラはまるでそこに足場でもあるかのように、空を歩き始めた。


「立体投影ショーの機能を利用しているのでしょう」


 篠崎は言った。そうこうしている内に、怪盗パンドラは窓ガラスの直前までやって来た。


『さて。これからこの窓ガラスを割って展示室内に侵入し、タルタロスの手錠を頂戴致します。つきましては、危ないので窓ガラスから離れて頂きたい』


 客たちは素直に窓ガラスから距離を取った。


『ご協力に感謝する。では……』


 怪盗パンドラは指鉄砲を構えた。


『3、2、1……』


 そして立体投影されたパンドラは、ニヤリと笑った。


『バーン』


 怪盗パンドラは銃声の声真似をした後、まるで本当に撃ったかのように指を上げた。その瞬間……。


――バリィイインッッ!


 展示室内の外側の窓ガラスが、盛大に割れた。白鳥タワーは立方体で、360度に窓ガラスがある。それらが順番に、何度も、バリンバリンと盛大に割れていく。


 あらかじめ伝えられていた客たちは、それでも恐怖のあまりに悲鳴を上げてしまう。それ程に壮絶な事態だった。


「獲物はっ!?」


 爆発するようにガラスが割れるのが収まった後、篠崎は言った。


「ありません!」


 警察官が答えた。


「なに……!?」


 篠崎はタルタロスの手錠があった場所を見る。先程までそこにあったタルタロスの手錠は、見事に消失していた。


「きゃあっ!」


 女性客の誰かが悲鳴を上げた。篠崎はその悲鳴が上がった方向を見る。すると丁度、先程の怪盗パンドラと同じ服装の人物が、外に向かって飛び降りるのを目撃した。


『タルタロスの手錠は確かに頂戴した』


 怪盗パンドラの音声が展示室に響き渡る。篠崎は割れた窓ガラスの先を見下げる。怪盗パンドラらしき人物は、落下しながら仰向けでこちらを向いていた。


『それでは親愛なる愚者共。ご機嫌よう』


 そして闇夜に消えていった。

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