第3話

 時刻は進み、犯行予告時間の5分前。


 織田と篠崎が話し合っていると、彼女は太ももに軽い感触を感じた。


 そこを見ると、金髪の女の子が太ももにくっ付いていた。見た感じ小学5年生くらいだろう。顔もそのくらいに幼げだが、しかし日本人の顔ではない。


「お姉ちゃん、タンテーさん?」


 少女はあどけなく言った。


「そうだよ。君は?」


 篠崎は微笑んで尋ねた。


「私エイミー! ねえねえ、タンテーさん。タンテーさんは誰かを捕まえに来たの?」

「ああ、そうだとも。といっても、ここに居るのは偶々だったんだけどね」


 篠崎はセブンアイズの一人で、警察から捜査協力を要請されることも多い。しかし今回、白鳥タワーの展示室にいたのは偶然だった。あくまで客として、タルタロスの手錠を見に来ただけに過ぎない。


「偶々でも、俺はラッキーっすよ! 何せあの、7人しかいない探偵の一人に会えたっすから!」


 織田は嬉しそうに言った。


「雑談はここまで。そろそろですよ」


 篠崎はスマホで時間を確認する。デジタルの表示が20時を示した瞬間。


――ガタン。


 館内の照明が一斉に落ちた。客たちはあまりの事態に、騒然とした。


「落ち着いてっす! 走り回ったら危険っすから、その場から動かないで!」


 織田警部がこの場にいる全員に指示を出した。


「しかし、ただの停電にしては暗すぎますね」


 篠崎が言う。誰がどこにいるのかさえ分からない程、一切の光がなかった。


「予備電源で稼働している非常灯などが全て破壊されています!」

「装備していたライトなども壊されています! いつの間に……」


 警察官か警備員か、ともかく誰かが言った。


「なるほど。皆さん、お手持ちのスマホなどで灯りになるものがございましたら、それを点けて掲げて下さい!」


 篠崎の指示通りに客たちは従った。淡い光が展示室内を照らす。


「タルタロスの手錠はまだあります!」


 警察官の一人が言った。篠崎も獲物を確認する。薄ぼんやりな明かりで見え難いが、確かにそこにあった。


「お姉ちゃん、怖いよう」


 エイミーはずっと篠崎にくっ付いていた。


「よしよし。大丈夫、パンドラは殺人なんて絶対にしないから」


 篠崎は優しく少女の頭を撫でた。その時……。



『パンドラの箱を開けし愚者共。ご機嫌よう』



 展示室内に、謎の声が響き渡った。


「スピーカーから流れているようです」


 警察官が言う。


 そして次の瞬間。窓ガラスの向こう側に、一人の人物が映し出された。


 その人物は、黒いシルクハット、片眼鏡、黒いタキシードに黒いマントを身に纏っていた。そして右手には黒いステッキを持っている。怪盗の典型的な姿だった。


「怪盗パンドラ……」


 織田が呟いた。


 怪盗パンドラ。世界で騒がれている怪盗の一人である。彼は事前に犯行予告状を出し、そこに記された獲物を予告状通りに盗んでいく。


 ガラスの向こう側に映し出されたのは、まさに世間一般に広がっている、怪盗パンドラの姿であった。

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