第2話

 今から約30分前。白鳥タワーにてカードが発見された。以下はその内容の原文である。


”3月30日20時。パンドラの箱は開かれた。箱から飛び出し我が幻影が、タルタロスの手錠を頂戴致します”


 タルタロスの手錠とは、この展示室の目玉となる展示品であった。


 この手錠は普通のものではなく、ダイヤモンドでコーティングされた超強固な手錠である。鍵は特別な仕様で一つしかない。


 最近まで特殊な囚人を拘束するのに、実際に使用されていた代物である。


 しかし先日、その鍵が失われ、二度と解錠出来ない手錠となってしまった。


 そのため、この白鳥タワーにて展示することになったのである。


 それが高さ3.5メートルの巨大な台座に、まるで太古のお宝の如く展示されていた。高低差があるものの、タルタロスの手錠自体が傾けて設置されているため、見にくいということもない。


 台座は円筒型の展示室内の中央、内側に設置されていた。


「台座の高さは3.5メートル。一般的な木造建築の二階の床くらいの高さっす」


 篠崎と織田は、その高々と展示されたタルタロスの手錠を見上げた。


 そして篠崎は、次に台座の両サイドにいる警備員を見た。


「なるほど。これならば、もしこの警備員二人が怪盗パンドラだったとしても、目立ちそうですね」


 篠崎の言葉を聞いた警備員二人は、複雑そうな表情を浮かべた。


 篠崎はタワーの内側から、外側に向かって歩いて行った。そして窓ガラスからの景色を眺めた。


「絶景ですね」


 タワー外側は前面ガラス張りとなっていて、高度からの夜景が一望出来る。


 展示室までの高さは丁度200メートル。付近の高層ビルよりもずっと高い。


 この窓ガラスには、映像を映し出す機能がある。その機能を利用して記号やキャラクターなどを、あたかも景色の空間上にあるかの様に表現することが出来る。


 その立体投影ショーは、怪盗パンドラの犯行予告状の所為で中止となった。


 篠崎は人混みを縫うように進み、タルタロスの手錠の前に戻った。


「結構、客がいますね」

「そりゃそうっすよ。この展示は完全予約制ですが、完売したそうっす。そして怪盗パンドラの犯行予告所が見つかったのがつい先ほど。急なことだったから中止にすることも出来なかったらしいっす」


 織田の説明を聞きながら、篠崎は行き交う客たちを観察した。


「容疑者は、この客全員って訳っす。骨が折れるっすね」


 織田はそう言って、ため息をついた。


「しかし、それは悪いことばかりではありません。ここにいる客全員が、獲物の監視者となるのですから」


 篠崎はタルタロスの手錠を見上げる。まさに注目の的となっている獲物。

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