怪盗編1:死角の獲物

第1話

 それは万人の注目の的であった。




 時は遡って、3月30日。19時。


 薄暗い夜のビル街は、自動車のライトや建物の明かりで煌々と照らされている。


 綺麗に舗装された歩道。それに沿って植えられた並木。清潔感さえあるその場所を、一人の女性が歩いて行く。


 長い黒髪。白シャツに黒のスラックス。そして黒レザーのハンドバッグというシンプルなスタイル。大人びた、綺麗な女性であった。


「ねえ見て。あの人って……」

「うん、多分そうだよ。セブンアイズの」


 すれ違った女性数人が、彼女を見て嬉しそうに言った。


 彼女の名は篠崎しのざき 瀬奈せな。大人びた女性の様な風貌だが、高校生である。


 彼女はビル街でも一際大きな建物に入っていく。白鳥タワーと呼ばれるその建物は、全長250メートルもある円筒形のタワーであった。


 そのままエレベータで25階まで上がった。ドアが開くと、電車の改札口のようなゲートが見えた。


 篠崎はスマホを取り出して、二次元コードをかざし、中に入った。


 そこは展示室であった。宝石などの様々な貴重な代物が、ガラスケースに飾られている。


 篠崎はそれに目もくれず、一直線にとある人物の元へ歩いて行った。


「あの」


 アルト声域の声が響いた。それはまさしく、篠崎の声である。スーツ姿の男性は、その声に振り返った。


 その男性は茶髪であった。眉は細く、顔は良いが遊んでいるような印象であった。


「警察官が沢山いるみたいですが、何かあったのですか?」


 篠崎はそう言いながら、周囲を見渡した。私服の客しかいないように見えるが、張り詰めた雰囲気を出している者が数名いた。


 声を掛けられた男性は、篠崎を見つめる。そして……。


「あっれぇ! セブンアイズ6位の篠崎さん!? そうっすよねっ!?」


 素っ頓狂な大声を出して、男は言った。


「ええ。まあ、そうですけど」


 あまりのテンションに、篠崎も若干引いた。


「どうしたんすか? こんなところで」

「今日はここの展示を見に来たのですが……。それよりも、何かあったんですよね?」


 篠崎が尋ねると、男性は難色を示した。


「えー、あー、まあ、何かある訳なんですけど。しかし、篠崎さんは今は一応、無関係の方なんですよねえ」

「よろしければ、協力しますよ。えーと、あなたは……」

「あ、織田っす。警視庁捜査一課の織田おだ 誠司せいじです」


 織田はそう名乗りながら、手帳を見せる。階級は警部であった。


「警部!? あなたが……?」


 信じられない、といった感じの表情で織田を見た。


「警部だということを言うと、みんな驚くんすよねぇ! はは、ウケル」


 軽く言う織田に、篠崎は呆れた。


「まあ、ともかく。私はセブンアイズの6位です。私の協力は、きっと有益だと思いますが」

「協力っすかぁ。うーん、まあ良いか。内緒っすよ、これ」


 織田はそんな調子で、説明をし始めた。

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