大怪盗パンドラと名探偵シャロ

violet

怪盗ゲームとラブコメディ

プロローグ

第0話

 怪盗が謎を残して、探偵がその謎を解く。彼女はその一連の行為を、愛の営みと呼んだ。




 11月下旬、昼頃。秋の過ごしやすい気候から、ちょっと肌寒くなってきた時期。


 青年はコートを羽織って、スクランブル交差点の信号を待っていた。


『本日のゲストはなんと! 14歳の超天才美少女! 各国の警察機関が公式に認めた、世界で7人しかいない探偵の一人! ”セブンアイズ” 第7位のシャーロ・クロックさんです』


 青年は信号を待ちながら、聞こえてくる音声の音源に目をやった。


 交差点近くにある家電量販店の大きなビル。その一面にモニターが設置されていて、地上波が放送されていた。


『ガハハ! 私のことは、シャロと呼びたまえ!』


 その映像には、金髪の少女が映っていた。赤いチェックの鹿撃ち帽子に、インバネスコート。そんな彼女が、スタジオのゲスト席に座っている。


 彼女はその幼き身体に似合わないパイプを片手に、みっともない高笑いをしていた。


『それではシャロさん。今日は何かメッセージがある、ということですが……』

『ああ、そうだ。我が愛しき恋人。怪盗パンドラに、メッセージがある』


 少女が言うと、カメラが切り替わった。少女の顔全体が画面いっぱいに映り込む。


『怪盗パンドラ。君の目的は全て分かった。”エルピス”。君ならこのキーワードが何なのか分かるだろう。それに関するの情報が……』


 少女は自身のこめかみに、指を差した。


『この中に、ある』


 ニヤリと、少女は口を歪ませた。


『君は自身の目的のために、私を盗み出したまえ』


 その映像を見ていた青年は、顔を伏せた。


「フッ……」


 そして不適に笑った。


「どうするんだ?」

「もちろん、決まっているわよね?」


 いつの間にか、青年の隣に男性と女性が立っていた。


「ああ、もちろんだ」


 青年はそう答えると、スマホを取り出して耳に当てた。


ひいらぎ

『はい、すぐに』


 スマホ越しに老人の声が響いた。するとモニターに映っていたテレビの映像に、変化が起きる。


『先ほど、テレビ局に謎の手紙が届きました! 読み上げます』


 テレビに映っていたアナウンサーが、慌ただしく言った。そして持っていた手紙らしき物に、視線を落とした。


”11月25日19時。パンドラの箱は開かれた。真の怪盗が、金色の美少女を頂戴します”


『何と、怪盗パンドラから返事が来ました! 11月25日19時、怪盗パンドラがシャロさんを狙うそうです!』


 騒然とするスタジオ内。そんな中、少女はカメラを睨んだ。


『もう茶番は終わりだ』


 獰猛な目が、モニター越しに青年を射貫いた。


「茶番は終わり、ね」


 青年は少女の言葉を繰り返すと、ふふっと笑った。


「良いだろう。真剣勝負だ」


 青年はそう呟くと、再び歩き出した。

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