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「そうなんですね。興味深い」
「嘘はやめろ」
「嘘じゃありませんよ。だって明日世界が終わるんですよ?」
こくり、と一口缶ジュースを傾けながら、彼女は言った。
「普通はこう、持ってる貯金全部使って美味しいもの食べるとか、会いたい人に会いに行くとかじゃないですか? それなのに、あなたは何もしないを選ぶんですね」
「ああ、まあ貯金も大してねえし、会いたいやつもいねえしな」
自分で言いながら苦笑する。本当に、俺には何もなかった。
「でもスーツを着ているということは会社員さんですよね? 会社に仲のいい方とかは」
「いねえよ、そんなもん」
「ご家族やお友達は?」
「もう40だけどな。結婚もしてねえし親も死んだ。友達なんて、いたこともねえ」
明日、世界が終わる。
悪くねえよ。
悲しくもない。悲しまれることもない。
いっそ楽に死ねて、俺としてはラッキーなほうだ。
「今日もクレーム対応で疲れてよ、ここでサボってんだ。どうせ会社帰っても帰らなくても、誰も気付かねえだろうしな」
「気付かない?」
「ああ。……昔はそうでもなかったんだがな」
新卒で入社して、それなりに真面目に働いて結果を残して、周りに助けられながらも自分の成長を感じることができた。あの頃には、仲のいいやつもいたっけな。
それが転んだのは、30を迎えた年だった。
「部署の先輩が他社に引き抜かれて、俺はその先輩の大得意先を引き継いでな。それで、その得意先がうちとの契約を切りやがってさ」
その話は先輩がいた頃からあったらしいが、先輩はそんな話を一切しないまま退社しており、上司も知らんふりで全責任は俺になすりつけられた。
「でも今の時代、犯罪でも犯さなきゃ会社も社員の首を切れねえ。だから会社は間接的に俺を自主退職するよう追い込んだんだよ」
会社は、俺を違う部署に異動させ不利な仕事を持たせ、若いやつを昇進させて、俺の立場を失くしにかかった。
「そんで周りもそんな俺を避けるようになった。まあそれが正解だわな」
どうして俺は辞めなかったのだろうか。多分、ただの意地みたいなもんだ。
いつか絶対に見返してやる、とでも思っていたのだろう。
そんな気持ちもとうにどこかに行ってしまったが。
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