最終話 かあさん、東京は楽しいところです。

 私は恐らく車のトランクの中にいる。ゴンゴンと車は乱暴に運転されている。とはいえ高校の近くに警察署がある。すぐにパトカーのサイレンが聞こえてくるはずだ。そう思って震える体を抱きしめてなんとか耐える。

 でも、……私の予想を裏切りサイレンの音が聞こえないまま、車は停車した。

 ガタガタと物音がしてから、トランクが開けられる音がした。

「イイコだなぁ、ちゃんと袋被ってて……ラッピングみてえな可愛い格好してよォ」

 その低い声は絶海ぜっかいさんに似ていた。けれど私の腕をつかんで乱暴に引きずり下ろすその手は、見なくてもわかるぐらいに絶海さんのものではない。

 その人は私をずるずると引きずり、どこかに投げた。どさ、となにかの上に落とされてから、乱暴に頭に被せられていた袋が外れる。

 そこは狭い空間だった。引っ越し用のトラックの荷台の中のようにも見えるけど電気がついている。倉庫だろうか。私が落とされたのは汚いマットレスの上だった。

 そうして、私を見下ろすのは一人の男だった。

「あなた、誰?」

「お父さんだよ」

 男は私の近くにしゃがむと、指先で私のスカートをめくった。

「色気のねえ下着」

「スウェットです!」

「こういう服着るなら見られていい下着にしろよ」

「やめなさい! スカートめくりなんて小学生でも今時しないわよ!」

 男の手を振り払い、転がって立ち上がり扉まで走った。彼はにやにやと笑う。扉を叩いても開くことがない。ドアノブを回しても開く気配がない。鍵がかけられている。

「なんでっ、こんなことをするの!」

「変なこと聞くやつだな。楽しいからに決まってるだろ。楽しそうにしている奴らを絶望させて、泣かせるのって……最高に楽しいじゃん」

「趣味が悪いわ!」

「親父の趣味に文句をつけるなよ。生意気だなぁ、反抗期か?」

 男はゆっくりと立ち上がる。ぞわぞわと、全身が汗をかく。

「人違いよ、私のお父さんはあなたじゃない」

「フウン……、ならお前のお父さんって誰だ?」

「筑波は親と同居してなきゃ通えないのよ。つまり、私はお父さんと同居しているの! 要するに私のお父さんは絶海さんよ!」

 彼はゆっくりと私の前まで歩いてくると、指先で私の着ていたジャケットの袖に触れた。

「本気で言ってんのか」

 その目は怒っている人の目だった。絶海さんに似ている顔なのに、絶海さんだったら絶対しない目で、彼は私を見下ろした。――寒い。声がでない。息ができない。怖い。――ガタガタと全身が震えて今にも崩れ落ちてしまいそうだ。それをこらえて絶海さんのジャケットの袖を握りしめようとしたが、それより前に、その男がカチリと大きなハサミを私に向けた。

「よく切れるんだよ、このハサミ」

「ア、……」

「……コレ、兄貴の貧乏臭い匂いがするなぁ」

 ジャキン、とジャケットの襟にハサミを入れられる。ジャキン、ジャキン、と耳元で音が鳴る。ばさばさとバラバラになったジャケットが落ちていく。

「震えているな。俺が怖いか?」

 ハサミがドレスの肩紐にかかる。

「俺と兄貴はなにも違わねえ。あいつのせいで人生が終わったやつが何人いるか……」

 ヒヤリとしたハサミが首に触れる。

「兄貴に愛されてるとでも思ったか? 親父の代わりになってくれるとでも? 可哀想にな……五言寺の血にそんなものはねえんだよ。……お前は生まれたときから俺のおもちゃだ。お前の母親同様に、俺を楽しませるだけのもんだ。それを今の今まで逃げて……悪い子だな、朱莉あかり

 その人は絶海さんに似ている顔をしている。

「しつけてやらないと」

 だけど絶海さんとは全く違う微笑みだ。

「まずは、お父さん、許してくださいって詫びろよ、朱莉。……それから俺を楽しませろ」

 ペタリ、と彼はハサミを私の頬に当てた。




 ……夢を見ている。

『ぜっかい……どこ? どこ?』

 俺を呼びながら小さい女の子が泣いている。俺は夢の中でいつもこの子を見ている。見ている間に夢はどんどん深くなる。帰れないぐらい深くなる。恐ろしいことだとはわかる。それでも起きたくない。

『むかえにきてくれないの……?』

 この子を見ていたい。二度と目が覚めなくてもいいから、この子を見ていたい。だってもう現実で見ることはできないのだから……。

 彼女はいつの間にか赤子ではなく幼子になり、幼子から女の子になり、今はもう女の子ではなく、大人の女性に足を踏み入れている。

 大きくなった。綺麗になった。

 そんな彼女が泣きそうな顔をしている。

『絶海さんが、私を愛していない……?』

 彼女が俺を呼んでいる。

『愛は相手のために生きること。そしてそれが愛かどうかは相手が判断すること。自分で決めていいことじゃないの。わかる? つまりね……』

 ……これは夢か?

『絶海さんは私を愛してくれていると決めていいのは私だけなの』

 それとも、これは現実か?

『絶海さんが私を愛していないはずがないでしょう! ふざけたこと言わないで! 絶海さんだってそれを否定はできないわ! 絶海さんは私のこと気味が悪いぐらい大好きなんだから! だから私はっ……絶海さんを泣かせないって約束したのよ!』

 怯える彼女に誰かの手が迫っている。

「朱莉」

 泥のように落ちていた意識が浮上する。夢が終わり現実の世界が目の前に広がる。しかし、起きたときにはっきりと夢を覚えていた。

「朱莉が、俺を呼んでる……」

 立ち上がると、体が揺らいだが、そんなことは些末だった。寝室の扉を開いてキッチンに向かうとヒロが驚いた顔をしていた。

「若、起きたんですか⁉」

「朱莉はどこにいる」

「朱莉ちゃんは今日、文化祭ですよ?」

 ヒロがそう言ったときにスマホが鳴った。それは間宮くんからの電話だった。

「どうした?」

『絶海さん! よかった、起きてた……今、朱莉さんが絶海さんをちょいブスにした感じの男に車に拐われてしまって……警察呼んだんですけど、……ごめんなさい。俺が、……俺が守れなくて……』

「わかった。きみは安全なところにいてくれ。いいね?」

 電話を切り、息を吐き出す。

「ヒロ、協定が破られた」

「……協定って……まさか……」

「なめられたもんだな、俺も……アァ……行くぞ、ヒロ」

「……はい、若! ついていきます!」

 なぜかヒロは笑っていた。なにがそんなに楽しいのかはわからなかったが、今はそんなことはどうでもよかった。





「アー、めんどくせえな、殴っちまったよ……生意気ばっか言うお前が悪いんだぜ……」

 髪を掴まれたと思ったらそのままマットレスの上にまた引き倒された。

「……なんでっ、こんなことするの! 痛いわ!」

「俺のもんを迎えにきただけだぜ?」

「私はあなたのものじゃないわ! それに、だったらここはどこなのよ!」

「ハァ?」

「迎えにきてくれたなら家に連れていくのが普通でしょ!」

 彼は私の言葉に動きを止め「ナアニ、俺の家がよかったの? 可愛いねえ」と笑った。可愛いことも笑われるようなことも言ったつもりは全くない。

 というより、この人、話がつながっていない。まるで厚いガラスの向こう側に向かって話しているような気持ちにさせられる。なにより彼とは目が合わない。――なんかしらの発達障がいを持っているのだろう。まともに話ができる人じゃない。でも、だったらどうしたら、……どうしたら……。考えがまとまらない内に彼は私に手を伸ばす。

「……あんなに欲しがってた組まで壊してやったのに、ボロボロにしてやったのに、仕返しにもこねえ。つまんねえの……」

 私の頬に触れた彼の手はかさついている。

「あいつ以上に五言時はいねえのによ……」

 あたたかくて大きな手の平だ。

「……ナァ、あいつ、どうしたら元に戻るかな?」

 そう呟く彼の顔を見たときに、私ははっきりとわかった。確かにこの人が、この人こそが私の父だ。

「お前壊したら俺を殺しにきてくれるのかな……また五言時背負ってくれんのかな?」

 絶海さんはきっとこの人をとても大事にしていた。優しい人だから弟のことを猫みたいに可愛がっていたんだろう。でもこの人も私も一緒だ。人の愛情を信じられなくて、あの人の堪忍袋が破れるまで試す。彼にとって五言時の跡目抗争など、つまり、その一環でしかなかったのだ。

 私と一緒で馬鹿な人。馬鹿で、勝手だ。絶海さんに嫌われても仕方がない。私も、この人も、絶海さんに捨てられてもなにひとつ文句が言えない。そうわかったときに、目から勝手に涙がこぼれてしまった。彼は私の涙を見て嫌そうに顔を歪めた。

「チッ、泣いてる女って本当にブスだ……泣くなよ。まだなんもしてねえだろ、俺は……」

 彼の手に頬を寄せると、彼は怯えたように手を引いた。だから私は起き上がり、代わりに彼の頬に触れた。彼は困惑した様子で私を見下ろす。

「絶海さん……起きないの……私のせいなの……」

「……ハ? 起きない?」

「どうしようっ……ねえっ……どうしよう……どうしたらいいの……絶海さんに嫌われたら、どうしよう……ねえ、どうしたらいいの……」

「ハ? 待てよ、お前、なにを言ってんだ?」

 ――不意に、電話が鳴った。

 ボロボロにされたジャケットの山の中からだ。彼は舌打ちをしてから、山の中から私のスマホをとりあげた。彼は画面を見ると、私にスマホを差し出してきた。

「出な、兄貴からだ」

「いいの?」

「いいから早くしろ」

 指紋認証でロックをはずして、電話に出る。

『無事か、朱莉』

 その低い声は、間違いなく絶海さんだった。

「起きられたの……?」

『話したいことは色々あるが、まずはそこにいる馬鹿に代わってくれるか?』

 私はスマホを隣にいた彼に渡した。彼は舌打ちをしてから電話に出た。

「……久しぶりだな……ハッ、なんもしてねえよ、……ガキ相手にそんなもんもってくるか、ハサミだけだ。良心的だろうが……」

 私はゆっくりと立ち上がりドアに向かった。彼はどうせ開かないとわかっているからか私をチラリと見るだけで、「さあ、そりゃあんた次第だ。場所……マァあんたならそうか。……ハハッ、俺はそんな面白いことしてねえぞ?」などと話している。

 私は無駄な努力としても、ドアをたたく。だれか、だれか、だれか――「躾だ、こんなの。……なんだ、そんなことで怒るのか?」――そのとき、固く閉ざされていたはずのドアが開いた。

「朱莉」

 扉を開けてくれた彼は私の腕を引くとすぐに私を背中にかばってくれた。タァン、と高い音が鳴る。映画でしか聞かない、発砲音だ。

「安心しろ。空砲だ」

「ばかかよ。当たれば折れるんだよ。こっちは丸腰だぞ。いってえな……」

「お前の事務所と金庫は俺の部下がおさえている。蜂の巣にされたくねえなら今失せろ」

「ハ? ……どういうことだ?」

「俺がお前から目を離すと思ってたのか。協定破ったら殺すっつったろうが……そんぐらいの保険はかけている。……お前、いつになったら成長するんだ」

「……アッソ、……アァ、ソウ……ククッ」

 ……子どもの頃から見ていた夢がある。

『朱莉』

 優しく笑う人。私はその人の膝の上が好きだった。振り返るといつもその人と目が合って、その人が私を抱き締めてくれるその場所が好きだった。

『……いつか迎えに行くから』

 それが幼い頃から繰り返し見る夢だった。

 私はあの人が迎えにきてくれると信じていた。だからずっと待っていた。

 今、目の前に、絶海さんの背中がある。ずっと前にも、私はこの背中を見た。

『さようなら、朱莉』

 そうだ。いつか窓越しに見たあの人の背中だ。――覚えている。そうだ、私はこの人を知っている。ずっと知っている。この人だ。この人が、私の――絶海だ。

 その背中に手を伸ばす。

 やっと、――迎えにきてくれた。

「朱莉、大丈夫だ。……目を閉じて耳を塞いでいなさい」

 言われた通り私は耳を塞ぐ。

「やっぱり、てめえが、……てめえこそが五言時だナ……」

「俺は堅気だ。もうあの組はどこにもない。いつになったらわかるんだ」

「わからねえな。お前がいれば五言時はある。お前が何故それを認めないのか」

 彼は絶海さんの頬に触れて、目を細める。その微笑みは優しかった。

「……ナア、兄貴、認めろよ。今の生き方じゃ、生きてる気がしねえだろ。だから、そんな病気になる。いつまで寝ているつもりだ?」

「ハッ、お前も俺を見ていたってことか」

「当たり前だろ。なあ、兄貴、帰ってこい。あんたは堅気にゃもったいねえよ」

「……朱莉がいる。この子が生きているのを見るが今の俺の喜びだ」

「フウン。俺の娘に惚れるとはあんたも随分間抜けになったな」

 絶海さんはパシン、と彼の手を弾いた。

「間抜けはてめえだ。朱莉はてめえのじゃねえ。俺の娘なんだよ」

 その楽しそうな絶海さんの声は掌を通して聞こえた。

「そうよ! その通りだわ!」

 私が絶海さんにしがみつくと、絶海さんはよしよしと頭を撫でてくれた。

「わかったら失せろ、次は殺すぞ」

「……、マア、いい。今日はあんたのその目が見られたからな……ご帰還を楽しみにしてるぜ、親父殿。……じゃあ、またな、朱莉。次は俺の家に連れてってるよ」

 男の足音が去っていき、ドアが閉まる音がして、さらに足男が遠ざかって完全に消えてから、絶海さんは振り返った。

「もう大丈夫だ。怪我はないか? ……朱莉?」

「こわかった……」

「ウン、そうか。でももう大丈夫だぞ?」

「ごわがっだのっ‼ あやまって‼」

「……すまない?」

「おぞいっ! むがえっおぞい! いっづも! ぜっかい‼ おぞいー‼」

「いてっ⁉ 悪かった、私が全部悪かったから暴れるな!」

 絶海さんは「無事でよかった」なんて言うから「全然無事じゃない! よくなんかない!」と怒ると「間に合ってよかったという意味で……」と言い直すから「間に合ってない!」と殴った。絶海さんは慌てた様子で「なにかされたのか!」と言うから「スカートめくられたし、殴られたし、絶海さんのジャケットも切られちゃったの!」と言ったら、彼の顔から一切の表情が消えた。

「だから全然無事じゃないの! すっごい怖かったし、気持ち悪かったの! だからもっとちゃんと慰めてよ! ちゃんとぎゅーってしてよ!」

「……朱莉……」

「なに? まだなんかあんの⁉」

「遅くなってすまなかった」

「……うん、本当よ……本当に遅かったんだから!」

 絶海さんはちゃんと私を抱きしめてくれた。安心できるお香の匂いがした。

「……ウン、絶海さんがいるならもう安心ね……」

 ここは安心する場所だ。私はずっと前からそれを知っていた。だからそれが父であればいいと思っていた。この人が父ならいいと思っていた。ずっとそう思っていたのだ。この人がお父さんならいいのに、と、……幼い私の思い出がようやくちゃんと腑に落ちた。

 大好きだからお父さんであってほしかったんだ。

 でも、今はこの人がなんでもいい。絶海さんの腕の中なら怖くない。だってこの人は絶対私の味方だから。

「絶海さん、私のこと大好きよね?」

 絶海さんは私を抱きしめて「きみが、私はきみが大好きだと認めてくれるなら、それだけで生きていける」と笑った。意味が分からない。やっぱり絶海さんは変な人だ。

 それでも私は涙が止まっても、ずっと絶海さんにしがみついていた。




 今回の騒動の原因がバズっていた動画によって父に私の存在がばれたことだったそうだ。だから私たちの動画は全て削除した。消してしまえばバズっていたのが嘘みたいに、誰の話題にも上がらなくなった。正直ほっとした。それに絶海さんもまた起きてくれるようになったから、やっぱり私たちはアイドルには向いていなかったのだろう。

 とにかく事件は無事に解決した。

 とはいえ、絶海さんは学校までも送り迎えしてくれるようになったし、学校側も校門のフェンスを厚くしてくれることになった。みんな過保護なのだ。

「ねえ、絶海さん。今回奇跡的に死人も重傷者もいなかったけど奇跡だったのかな?」

「……一応あいつは堅気には手を出さない。だからハサミしか持ってこなかっただろ?」

「あれ、すごく怖かったわ」

「まあ、堅気にはそうだよな……きみにも間宮くんにも怖い思いをさせた……」

 優弥ゆうやさんは頭を殴られて一瞬気絶したらしい。今は傷もなく治ったから気にしないでと言われても気になる。

「でも、……あの人、また来るよね?」

 私はため息をつくと、絶海さんもため息をついた。

「ああ、また来るだろうな。私だけならまだしも、朱莉のことも気に入ったようだから」

「えっそうなの⁉」

「あいつが家に他人をいれることなど私ときみのお母さん以外なかったはずだ」

 私が顔を歪めると絶海さんはもっと嫌そうに顔を歪めた。

 いずれにしろ彼は私の父で、絶海さんの弟なのだ。実に手間がかかる。私が苦笑すると絶海さんも肩を竦めた。

「……ねえ、絶海さん、どうして起きてくれたの?」

「……サァ、なんでだろうな。起きられるときは起きられる」

「ちゃんと病院通ってね、絶海さん」

 絶海さんの眠りの原因はまだわかっていない。でもとにかく今は起きていてくれる。

「朱莉は今日も可愛いな」

「またそうやってごまかして……ちゃんと病院行くんだよ?」

 こうしてなにもなかったみたいに眉を下げていつもみたいに優しく笑ってくれる。私が頭を差し出せば、くしゃくしゃと撫でてくれる。だから、……とりあえずはよしにしている。絶海さんは私の髪を手で梳かしたあと、ふと思い出したように「あ」と言った。

「そういえば朱莉、喉仏ぐらいは墓に入れてやりたいか? きみが要らなければ生きたまま全身の骨を細かく分断してやろうと思っているんだが……」

「へ、なんの話?」

「あのクズの話だが? マア、忘れてるならいいな。こちらで処分しておく。ヒロ、出刃包丁研いでおけ。来週の頭に大阪を焼く」

「えっ、なに、どういうこと⁉ 待って待って待って‼」

 ――この絶海さんの身内殺害予告は、私が「私は大阪よりも千葉の夢の国に行きたい! 絶海さんと一緒に行きたいなあ!」と叫んだことで実行されずに済んだけれど、その夢の国で絶海さんにお揃いの猫耳カチューシャをつけて回ってもらった後、絶海さんは三日間寝たきりになってしまった。しかも絶海さんが寝たきりになっているときに、絶海さんの子どもだって名乗る、私と同い年の男の子が来襲したりもしたのだけど、……マァ、それはまた別の手紙で書くね。

 とにかく東京はそんなに怖い街じゃないわ。どうか安心して、お母さんも東京に来てね。絶海さんはきっとぶつくさ言うけど、ちゃんと歓迎してくれるはずだから。……ちょっとだけ怖いこともあるけど、ちょっとだけ。本当に、本当よ。 

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