2 高1の花純は、塾で知り合った松山雄彦と帰り道を共にする

 高校に入学して、兄は大学生になっていた。最近は男の友達よりも、女の子を家に連れて来る事が多くなっていた。それも、一人の子ではなく、大学生になってから3人目であった。なぜ兄がそんなにもてるのか、私は不思議だった。

 ある時、兄の部屋から変な声が聞こえてきて、何も知らない私はいきなり部屋のドアを開けてしまった。兄と女の子が抱き合っていて、見てはいけないものだとその時初めて思った。後で怒られるかと思ったが、兄はその事には一切触れて来なかった。私が男子に対して嫌悪感を持ったのは、その時からだった。兄とはそれからあまり話す事もなく、同級生の男子とも気軽に話さなくなった。


 高1の秋から、私は家から歩いて15分の所にある学習塾に通っていた。そこには、クラスは違うが朝比奈杏も自転車で通っていた。週に2日で、帰りは夜の9時頃になった。

 同じクラスの松山雄彦が声を掛けてきたのは、通い出してすぐだった。雄彦は、進学校としては有名なF高校の生徒だった。家に帰る方向が同じで、そこで話し掛けてきた。

「坂上さんだよね。俺は松山雄彦、よろしく。帰り道が同じだから、一緒に歩いても良い。」と気さくに近付いてきた。私は初め警戒したが、断る理由も見付からず一緒に帰る事になった。道中は雄彦が主にしゃべり、私は聞き役だったが、回を重ねる毎に好意を抱くようになった。

 塾から10分ぐらい歩いて別れるが、話が途切れずに立ち止まって話すようになった。そのうちに、それでは飽き足らず、わざわざ回り道をして小さな公園に立ち寄るようになった。20分、30分と帰りが遅くなっていた。親から遅くなる事を注意されたが、雄彦の事は話さないでいた。


 ある日、公園のベンチで肩を寄せ合って話をしていると、雄彦が迫ってきた。

「坂上さんが好き!キスしてもいい?」

私も予期していたが、まだ心の準備ができていなかった。

「ごめんなさい。私は、そんな気持ちがないから…。」と断ると、雄彦は、

「何だよ!キスぐらいいいだろう!やらせろよ!」と人が変わったようだった。

私は恐くなって、これ切りにしたいと申し出た。


 後日、私は松山雄彦との事を杏に相談した。

「その断り方は、言葉足らずだよ!松山君は自棄になって、やらせろとか言ったんだね。でも、彼の好きは違うな。花純、気を付けた方がいいよ。」

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