第41話 stay with me ③

ユーリカはタケシから丹前という寝巻きの上に羽織る綿入りの防寒着を受け取ると、私に歩み寄り、グイッと押し付けた。


「お姉ちゃん、早く、追いかけて。」

「エーリカ、リュウを頼む。」


そんな二人の思いは、会話も念話も無くても理解できる。ユーリカに押し付けられた丹前。私は、その丹前がリュータであるように思え、愛しさに思わずギュッと抱きしめた。


そして、私はすぐに顔を上げ、ユーリカと頷き合う。タケシはグッと親指を立てていた。


「ユーリカ、タケシ、有難う。私、行ってくる!」


私は丹前を抱きしめたまま、宿坊の玄関から外に出て、リュータの僅かな魔力を辿って追いかける。背後からは「頑張ってね」というユーリカの声が聞こえてきた。


彼を追いかけて間もなく、私はリュータに追いつく事が出来た。ベンチに座るリュータの両眼を、私は後ろから両手で覆う。何でそんな事したかって、そのまま話しかけたら、必死な表情が見られそうで恥ずかしいら。


私がリュータに丹前を渡すと、リュータは早速Tシャツの上から着てくれて、サイズも合っていた。


リュータが私に行こうと誘ってくれた遥拝殿。そこで私は自分の思いをリュータにぶつけたのだ。すると、リュータは誰にも話した事が無いという、私が危惧する彼の行動の原因となっている幼少期からの生い立ちを話してくれた。


それを聞いて、私はリュータの家族(まあ、雪枝ちゃんは後悔して、反省してるようなので除いてあげよう)に対し、強い怒りを覚えた。


リュータは自分の今の立場を理解してくれた。その上で私のリュータを心配する思いを受け止め、そして、そして、私の事が好きだって、愛の告白してくれたのだ。ずっと一緒にいて欲しいって。


月光の下での告白。女の子が憧れるシチュエーション。そこに世界の違いは無いだろう。もう嬉しくて、嬉しくて、すぐに彼の胸に飛び込んで行きたかった。だけど、リュータはこの世界のヒト族で、私は向こうの世界のエルフだ。私達は互いに種族が違うのだ。


私達の世界では異種族間の婚姻は、あまり一般的ではないにしろ、決してタブーなどでは無い。でも、こっちの世界ではどうなのだろう?そもそも、異種族がいないみたいだけど。


リュータが私と結婚とかしたら、彼は罪に問われたり、周囲から非難されたり、差別されたりするのだろうか?


もし、そうだったら、リュータはどうするのだろう?そして、私はどうすればいいかのだろう?


「私は別の世界から来た、リュータとは違う種族だよ?それでもいいの?」


私が必死に絞り出した言葉に、リュータは、そんな事関係ない、私の事を愛してる、と言ってくれたのだ。それを聞いて、私の中のリュータ愛は大爆発。私は彼の胸に飛び込んだ。


「リュータ、私もリュータが好き。私がリュータを絶対守るから。愛してる、リュータ。」


そして、私達は抱き合って、そっと唇を重ねたのだ。



私達は、お互いの思いが通じた幸せな気持ちで宿坊へ帰った。私とユーリカに当てられた部屋ではユーリカが待ち構えていた。


ユーリカは私に、リュータを追いかけろと背中を押しながらも、どうも私の後をつけて一部始終見ていたようで、私はユーリカに祝福されつつ、からかわれた。私はユーリカには感謝しつつも、それはそれ、これはこれなので、ユーリカの右耳を軽く捻り上げてお仕置きをしたのだった。


私とユーリカは、魔王の思惑に巻き込まれて、この世界に転移させられてしまった訳で、それによって私達は今までの生活、家族、友人など多くの大切な物を失ったしまった。でも、私は土方竜太という強くて、優しくて、格好いい最愛の人を得る事が出来たのだ。


しかし、この先に何が起こるのかは、例え魔法で占っても未来の事はよくわからない。きっとまだまだ魔物との戦いは続くだろうし、そのせいでこの世界は戦乱と混乱の世の中になってしまっている。


私とリュータ、二人の事だってまだまだどのような形になるか未知数だ。それに、リュータ程の男性には、これから多くの女性達が群がって来る事だろう。現に今だってサキに、マイに、マコトに、みんなリュータが好きで狙っている。


私達の世界では一夫多妻も普通に認められているから、私もリュータを一人占めにするつもりはない。だけど、出来れば嫁の人数は少なくして欲しいなと思う。


そんな不確かな未来だけど、一つだけ自信を持って言えるのは、それは、この先何があっても私はリュータと共にあるって事。


私はその夜、森の神ウッダ様に就寝前の祈りを捧げた後、世界線の彼方にいるであろう家族に思いを馳せて、幸せな気分で布団に包まり眠りについた。


お父さん、お母さん、ビクトル、おじいちゃんとおばあちゃん。私とユーリカはこっちの世界で元気にしています。もう会えないかもしれないけど、私は、多分ユーリカも、この異世界で最愛の人と巡り会いました。紹介する事が出来なくて残念ですが、私はリュータと共に生きて行きます。どうか、安心して、お父さん達もいつまでも元気でいて下さい。

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魔法修行者の救国戦記 仁井 義文 @onsokubakugeki

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