第30話 好き!好き?女神先生
『ん〜、でも私ばっかり喋るのも不公平なので、皆さんからの質問大会という事にしましょうか?』
ズコッ! 不公平って、俺達呼び出されたんだけど?緊張した俺って…
「では、私からよろしいでしょうか?」
斉藤がすかさず、ハイッという感じで手を挙げ、なんか授業中みたいになった。
『はい、斉藤君。』
って、女神様もノリノリだ。
「この世界に魔物を送り込んだのは、一体どこの誰が、何の目的で行った事なのでしょうか?」
『うん、斉藤君。とても良い質問ですね。では答えましょう。魔物はこの世界ではない、後ろに座っている妖精族のお嬢さん達が住んでいた別の世界、そこに君臨する魔族の首領、つまり魔王によって送り込まれました。その意図するところは、この世界への棄兵、そして侵略です。』
「棄兵ですか?」
『そうです。魔王は彼の世界で、自らの部の民をもって征服戦争を始めました。その戦争で、魔王は魔族だけでは不足する戦力を、魔術により大量に増やし、進化を容易にさせた魔物を用いる事により解決したのです。そして、その世界の四つの大陸にあった国々はその多くがたちどころに制覇されてしまいました。』
「つまり、向こうの世界で、侵略世界がほぼ終わって用済みとなった大量の魔物を、この世界に棄てるとともに侵略するための尖兵とした、という事でしょうか?」
『斉藤君、その説明、お見事です。』
すると、俺の後ろから息をのむ音がして、エーリカが焦ったように声を上げた。
「あっ、あの、女神様、私も質問してよろしいでしょうか?」
『もちろんですよ、エーリカさん。』
「有難う御座います。魔王は四つの大陸にある国々の多くを制覇したと仰いましたが。私達が住んでいたアースラ大陸のエルム大森林は、魔王国や近隣の国々との協定でどこにも属さない中立地帯となっています。魔王は協定を守らなかったという事でしょうか?」
エーリカもユーリカも、サキ達も魔王による侵略戦争について、俺には今まで何も言ってなかった。エルム大森林が中立地帯という事で、魔王国軍と人族や獣人族の国々との戦争からは遠ざかっていたからだろう。だから、彼女達はこの世界に来るまでは普通に日常生活を送っていた。
『残念ながら、そのようですね。私も詳しい事はわかりませんが、中立地帯に逃げ込んだ人々の引渡しを口実にして攻め込んだようです。』
「そんな!」
「ひどい!」
エーリカとユーリカは、自分達の故郷が侵略された事実に絶句した。
「女神様、エルム大森林の人々はどうなったのでしょうか?」
更に、ユーリカが女神様に尋ねる。
『それは、あなた達姉妹や獣人の子ども達が、今ここに居る、という事がその答えとなりましょうか?』
「?、それは一体どういう事ですか?」
『エルム大森林を守る大精霊が、住民達の命を守るために、出来るだけ多くの人々をこの世界に転移させたのです。』
以前にエーリカから聞いた話によると、エルム大森林は向こうの世界で最も大きな大陸(アースラ大陸)の北西に位置し、西の海岸線を除いた三方を高い山脈に囲まれ、エーリカの話から想像するに、その面積は西ヨーロッパ程かと思われる。
その気候は、山脈により北や大陸からの寒気が遮られ、西から海流により運ばれた暖気が山脈により留まるため温暖であるという。生物にとって過ごしやすく、大部分が森林に覆われているので、特にエルフには住み心地の良い土地なのだそうだ。
そして、エルム大森林には、3本の精霊樹が北を頂点に正三角形を描いて全土を覆うように生えており、土地を守る大精霊が宿っている。エルム大森林は大精霊の魔力と正三角形の魔術的相乗効果による魔術結界に守られていたのだ。
魔王国軍は、どのような手段を用いたものか、その結界を破って侵行した、という事らしい。
「それではこの世界に、エルム大森林の人々が転移して来ているという事ですか?」
『その通りです。更に言えば、転移して来るのはこの世界のどこでもという事ではありません。』
「大精霊による転移先は無作為という訳ではなく、何らかの条件乃至制約があるという事ですか?」
『ええ。大精霊と呼ばれていますが、向こうの世界の神なのです。そして、魔王が行った世界線に穴を開けるやり方とは異なり、神による転移には異世界に受け手となる神が必要となります。ですから、この世界でも未だ神々の力が強く及ぶこの豊葦原の中つ国、中でも魔物が現れた秩父、甲斐、信濃の神々が受け手となったのです。』
という事は、エーリカとユーリカの家族や友人、サキ達を養育していた孤児院の先生や仲間達もこの世界に来ている、或いは来るのかもしれない。
「お姉ちゃん、お父さんお母さんもこっちにいるかもしれないね。」
「うん、そうだといいね。」
俺もエーリカとユーリカが再び家族と会える事を願ってやまないよ。
『さて、時間もあまり多くはありません。そろそろ質問大会を終わりにしますけど、最後に聞きたい事は有りますか?』
う〜ん、そう言われると思い浮かばないというか、考えればキリがないというか、くだらない質問で肝腎な事が聞けなくなりそうで怖いというか。そんな事を考えていると、斉藤が再び女神様に質問する。
「魔王の意図はわかりました。それでは、魔王が魔物をこの世界に送り込むに当たって、各国は首都や大都市が狙われましたが、我が国はそうではありませんでした。何故なのでしょうか?」
女神様は斉藤の質問を聞くと、感心した様な表情となった。
『流石、斉藤君ですね。良いところに気付きましたね。そう、魔王はその国の中枢を潰すよう、各国の首都や大都市を狙って魔物を送り込みました。当然、この国にもそのようにしたのです。』
「実際は東京が狙われた、という事でしょうか?」
『そうです。ですが、そうなればこの世界は終わりです。この日本という国は、この世界の要石というべき存在です。もし、この国が滅びるような事があれば、この世界の均衡は一気に崩れ、人の世は崩壊します。長い歴史の中で実際に幾たびもそのような危機がありました。』
俺が思い起こすだけでも、あの戦争やその前の戦争とか、幾つもあるな。恐ろしい事だが、結構、人類社会もギリギリだったのかもしれない。
『スメラミコトを頂点とする歴代のこの国の為政者達は、神界からの言葉を良く聞き、この国を守ってきました。それはひとえに世界の均衡を保ち、この世界を守る為でもありました。そのため、この国の中枢、即ちミヤコには霊的な結界が幾重にも施されているのです。』
「その結界は異世界からの侵略にも有効だった、というわけですね?」
『その通りです。異界の魔王もこの国のミヤコの結界を破る事は出来ませんでした。結果として異界からの穴を、魔物を封じ込め易い山深い地に誘導する事が出来たのです。』
女神様はそこで一旦言葉を切り、大きく溜め息をついた。
『でも、だからといってこの地を守る神としては納得出来ないわ。割りを食って、本当、大迷惑よ。魔王だか邪神だか知らないけど、噛み殺してやりたい!』
なんかもう、愚痴みたくなってたけど、邪神とかヤバいワードが混じっていたような気がしたが、聞かなかった事にしよう、そうしよう。
あっ、そうだ!あれを尋ねようと思っていたんだ。俺は一つ根本的な疑問を思い出したので、最後と言われたけど、ダメ元で聞いてみる事にしよう。
「女神様、最後の最後という事で、もう一つ質問があるのですが。」
『竜太君、しょうがない人ですね。特別に許しましょう。』
「有難う御座います。魔王は数ある並行世界の中で、何故この世界を狙ったのでしょうか?それに、魔王といえども神ではありません。その神ならざる魔王に、一つの世界に狙いを定め、任意の場所に大量の魔物を送り込む事など出来るものなのでしょうか?」
女神像は俺の質問を聞き終えると、少し考え込む表情となる。
『竜太君の質問は、世界の成り立ち、並行世界の成り立ちにも及ぶものです。神界でも、神から人へは容易に教えてはならない禁忌に属します。本来なら教える事は出来ませんが、これから神界から竜太君達にするお願い事とも無関係ではありませんので、私の権限で、特別に、その質問に答えましょう。有難く思いなさいね?』
いや、別に答えられないなら無理しなくてもいいんですけど。それを聞いてしまったら、神界からのお願い、役割とやらを益々引き受けざるを得なくなるじゃないか。
俺は自ら特大の地雷を踏んでしまったようだった。
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