第29話 めくるめく運命
『異界の魔物を打ち果たし、お山を守ってくれた事、皆さんにはとても感謝しています。』
俺達の前に顕現し、感謝を伝える狼の女神。普通の、もう普通ではないかもしれないが、人間である俺には、一体どのように返したらいいのかわからない。よくラノベなどでは、現れた女神に横柄な口を聞く主人公がいたりするが、あれは飽くまで小説だからであって、本物の、神威バンバンの女神様にとてもそんな事出来よう訳がない。
横に座っている斉藤は顔を伏せたままであり、後ろのエーリカとユーリカも黙して何も喋らない。
困った俺は、斉藤に念話を送って意見を求めた。
"これって誰が応じるの?"
"お前だよ、お前。"
"何で俺?"
"何でって、お前がリーダーだからだろ?"
"そんなの、いつ決まったっけ?"
"それ前提で今までやって来ただろうが!"
そして、そこに後ろの二人が参戦。
"もう!リュウ!神様待たせちゃダメじゃない!"
"そうだよ。リュウタがリーダーなんだから。"
まあ、やれと言うのであればやるけど、女神の相手をするとか、正直めんど、いや、畏れ多いし、荷が重い。
すると、拝殿内の気温がスーッと下がり、一気に肌寒くなった。
『神である私を放っておいて、仲良く念話でお喋り、楽しそうね?そんなに私と話すのが嫌なのかしら?』
女神様は機嫌を損ねてしまったようで、まずい事態である。機嫌を損ねた女性ほど対応困難なものは無い、と師匠はよく言っていたものだった。なので、俺も師匠譲りの対処を取ってみようと思う。
「畏くもお美しい女神様。その美しさに人の身でどのように接して良いものか、畏れ多く、皆目わかりませんでした。ご無礼のほど、どうかお許しください。」
そう言って謝罪すると、女神様はまじまじと俺を見て、やがてコホンと咳払いをした。
『ま、まあ。私が美しいというのは事実なので、あなたがドキドキして焦ってしまうのも無理はありません。寛大なる私は許しましょう。だけど、私が美しいからといってあなたが構える必要はありませんよ。気を楽にして、気さくに私と接しなさい。わかりましたか?土方竜太さん?』
「はい、有難き幸せです。」
何か、言っていない言葉も若干含まれていたような気がしたが、女神さまの口調には心なしかウキウキしていたような、嬉しさが見え隠れしていてた。俺の褒め言葉にまんざらでもない感じが滲んでいるように思えた。多分。
でも、まあ、せっかく女神様がそのように仰って下さったのだから、そこは甘えてみようと思う。
「それでは女神様。我々をこの場に呼ばれたのは何故なんでしょうか?」
『むう、もう少し砕けた口調でも構わないのですよ?』
「急には無理なので、追い追いでお願いします。」
『まあ、良いでしょう。私が皆さんを呼び寄せた理由は、まずはお山を守ってくれた事への感謝を伝えるため。』
それは先程頂戴しました。
『次に、この度の異界からの侵略について、我々からその真実を伝える事。』
ごくり、世界の真実来ました。知らない罪と知り過ぎる罠、か。
『そして、それを伝えた上で、皆さんに果たして貰いたい役割があるのです。』
最初は旅行先で、たまたま事態に巻き込まれたものだと思っていた。だが、旅行自体が俺を呼び寄せるため意図されたものだった。更にこの満峰神社に来るように導かれている。
『そのために、異界の件とは別に、実力のある者をこの地へ遣わすよう神託を下したのです。土方竜太さん、あなたの戦いを見させて貰いました。まだ少し危ういところが見受けられますが、あなたには役割を果たせるだけの実力があるようですね。』
果たして、顕現までした女神から直に頼み事をされて、それを断る事は出来るのか?俺には恐くて出来ない。
それに、ここまで来て後戻りは出来ない。今の俺には守るべき仲間達がいるのだ。そして、異世界から来た、若しくは異世界と関わってしまった彼等は、現状、この地から出ることは出来ず、この地で生きていくしかないのだ。ならば、前に進むしかない。
俺はそう覚悟を決めつつ、固唾を飲んで女神様の次の言葉を待った。
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