第10話 魔法修行はじめました③
エーリカとの魔力交流で、俺は魔力の存在を概念として理解し、信じる事が出来るようになった。思わず斉藤の方をチラッと見ると、奴はニヤニヤしながら右手でこっそりとサムズアップをしていた。
その後、今度は斉藤・ユーリカ組が同じく魔力交流を行い、こちらは俺とエーリカの前例を見て学習していたせいか、特に問題無く終わった。俺はてっきり斉藤もユーリカに可愛い声を上げさせるものと思っていたが、「俺は紳士だからな、そんな事はしないさ。」などとほざいたものだ。変態紳士のクセにな。
こうして、やや難産ではあったものの、取っ掛かりがつかめたため、エーリカ・ユーリカ先生による魔法修行が始まったのであった。
魔法を発動させるには、魔力、(魔力)操作、属性、この3つの要素が必要とされる。体内の魔力を操作し、それぞれの属性に沿った魔法を発動させる、という手順だ。
誰しも、その体内には魔力(気)があり、魔力を操って魔法を発動させる。魔法が使えない者は、この魔力操作が不得意、若しくは出来ない事に由来するらしい。
では、俺と斉藤はどうか?というと、魔力操作とは即ち錬気術であったため、体内の魔力を操作する事に関していえば、何ら問題は無かった。
「錬気術と魔力操作が同じと考えると、師匠の人間離れした所業も納得出来るな。」
「っていうか、そもそも師匠って何者なんだ?」
俺は錬気道空手に入門してから12年の間で見た様々な、有り得ない師匠の所業を思い、今更な疑問を抱いた。
「さあ、知らんな。」
「?」
この時、何故か斉藤は素っ気なく俺の疑問をはぐらかした。
ただ、魔力操作と錬気術に関しては問題が一つあった。以前にエーリカが言っていたように、エーリカとユーリカは空気中の魔素(気)を使って魔法を発動させていた。それに対して俺と斉藤は体内の気で錬気術を使う。
このように、魔力操作と錬気術には相違点があるのだ。そのため、俺と斉藤の魔法修行の第一歩は、その相違点を踏まえ、魔力操作を用いて大気中の魔素(気)を吸収し、体内で魔力に変換する事から始まった。それによって大量の魔力を得る事が出来、強力な魔法を使えるようになるのだ。
魔法を知ることにより、錬気術とは何か、という事も知る。果たして、錬気術とは何なのだろうか?斉藤の考察によると、「この世界から魔法が失われる過程で分派した魔法の欠片」ではないだろうか?という事だった。だから、この世界には他にもそうした「魔法の欠片」が他にもあるはずだ、とも斉藤は言った。
「例えば日本でいえば、忍術とか、修験道とか、密教なんかもそうかもしれないな。」
「じゃあ、仙人が霞を食べるっていうのは魔素の吸収そのものじゃないか。」
おそらく、イギリスとか、アフリカの奥地とか、そうした「魔力の欠片」は世界中に小さく散らばっているのだろう。もし、時間とお金に余裕があったならば、そうした研究をするのもいいかもしれない。
そして、魔力が有り、魔力操作が出来ればどのような魔法でも発動させられるのか?答えは"否"である。発動出来る魔法は、それぞれの持つ"属性"に左右される事になるのだ。
じゃあ、そもそも属性とは何なのか?というと、エーリカ曰く、「何でそうなるのか、よくわかっていない。」そうだ。
ただ、種族や血縁集団で同じ属性を共有する傾向があり、また、後天的に強く抱くに至った心象により属性が発現する事(例えば、病気になった家族を助けたい、という思いが回復魔法を発現させる等)がある、という事が知られているらしい。
では、俺や斉藤のように、どのような属性を持つのかわからない場合にはどうするのか?そうした場合、手っ取り早く知るには様々な魔法を試してみて、最も自分と相性が良かったものが、その者の持つ属性、という事になる。
俺の場合、火や雷のイメージが頭の中に真っ先に現れた。様々な魔法を試してみて、一応その全ての魔法を発動させる事が出来たものの、最も自分にしっくり来て、これが俺の魔法と思えたのは火と雷だった。
まあ、〜らしい、〜だそうだ、という伝聞形の結びが多くなってしまっているが、俺は魔法については何も知らないので、全部エーリカとユーリカから教わった知識と斉藤が立てた仮説に因るものだからしょうがない。
そうして、キャンプ場から移った尾根の別荘で、俺達4人が共同生活と修行をする事一週間。俺は火と雷の魔法を操り、更に、念動力と念話が使えるようになったのだ。
また、エーリカと魔力交流をして魔力操作が、より上手く出来るようになったせいか、更に勘が鋭くなり、今までに師匠から習った数々の技も、より強く発動させる事が出来るようになった。
先日は、食糧調達を兼ねた周辺の偵察に出た際に、魔物に破壊された土蔵の中で一竿の刀箪笥を見つけ、一振りの野太刀を手に入れた。そこで早速、そこにあった土管で試し斬りをしたところ、音も無く真っ二つにぶった斬る事が出来た、という訳だった。
因みに、斉藤は風属性を主体とした魔法が使える様になった。俺は火と雷の二つの属性持ちなのだが、どうも、属性は大抵の場合一人に一つずつが基本らしい。何故、俺がそうなのか、エーリカはとても珍しがっていたが、斉藤の見解では、俺の方が師匠の元での稽古歴が長いからではないか?との事だが、飽くまで可能性という話だ。
こうして、俺と斉藤は、エーリカとユーリカの指導のお陰もあって、修行を始めて一週間でそれぞれ魔法が使えるようになった。これで俺達4人集団の戦闘力は格段に高くなったため、俺達は話し合った結果、この別荘を出てより安全な避難所に更に移動する事にした。
携帯端末からの情報では、政府が指定した避難所が地図上に表示されていて、空挺降下した陸軍のコマンドがそうした避難所を守っているらしいのだ。そして、俺達がいる別荘から最も近い避難所は、国道を更に西に進んだ山の上にある満峰神社であった。
俺達は再び荷物を斉藤のパジェロに積載すると、世話になった誰の所有かもわからない尾根の別荘に感謝を込めて別れを告げ、一路満峰神社へ向かって出発した。
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