第9話 魔法修行はじめました②
ここではない、エーリカ達が生まれ暮らしていた異世界。そこには人間(ヒト族)を含めた多種多様な知的生命体が存在していて、彼等は魔法が使え、魔法を使った文明を発展させているという。
地球の科学文明とは異なったその"魔法文明"は、どのように生まれたのか。そもそも、どのようにして魔法が生まれたのか。そして、多種多様な知的生命体は、どのように生まれ、進化し、分化していったのか。考えれば考える程、興味は尽きない。
以前、俺が読んだ異世界が主な舞台の小説では、その世界のとある神が、世界に多様性を作り出すため、世界線を繋げて多種多様な種族を異世界から招き入れた、というものであったが、実際はどうなのだろうか。
そして、始まった魔法修行。エーリカとユーリカは、俺と斉藤には魔力があり、魔法を使えると言った。それを聞いた男二人は、恥ずかしながら大喜びしてしまった訳だけど、実際はというと、何も出来なかった。何も起きなかったのだ。
エーリカによると、俺がスコップに気を通した事自体が既に魔法であったという。実際に向こうの世界では、剣に魔力を通したり、纏わせたりして剣の強度を上げたり、鋭利さを増したり、はたまた魔剣にしたりしているそうだ。だから、俺も同じ事をしていたというのだが、それは以前から道場で師匠から教えを受けていた事だ。他にも、気を手足に集中させて打撃力を高めたり、稽古や試合で対峙した相手の考えが読めたり、という事も同じように出来ていた事なので、今でも出来る。それが魔法だとしても、何故かエーリカが教えてくれる魔法は何一つ出来なかった。
俺はエーリカやユーリカを疑っている訳ではないので、自分が不甲斐ないやら、何か申し訳ない気分だった。斉藤にしても同じ状況なので、自分だけという事では無いようだった。
この世界に魔素(気)があり、エーリカにも俺にも魔力がある。そして、エーリカはこの世界でも魔法が使え、俺は道場で習った錬気術の技しか使えない。
この差は何なのであろうか?
こうした時は、まず、斉藤に考えてもらうとしよう。
「俺もリュウも、この世界の人間は何故魔法が使えないのか?」
斉藤はそれだけ言うと、もったいぶって俺とエーリカとユーリカを見渡した。俺は内心、何もったいぶってんだこの野郎、早く言えよ!と思いながら次の言葉を待った。
「それは概念の差だと思う。」
「「「概念?」」」
「そう、概念だ。」
…宜しい、続け給え。
「まず、この世界にも"魔法"という言葉はあり、皆、魔法と聞くと同じような事を思い浮かべる。」
ああ、箒に跨って飛んだり、カボチャを馬車にしたりって奴だな。
「しかし、それは"魔法って有ったらいいな"の域を出ない、所謂空想の産物。本当は"魔法なんてある訳がない"と思っている。」
その通りだ。有ったらいいけど無いもの、それがこの世界での"魔法"だ。
「だが、この世界にも"気"や"念"の概念があり、言葉の端々に出てくる。実際、"気"を使った、俺達が習っている錬気術や合気道、気孔なんかもあって"気を使って"いるわけだ。」
そこまで聞いて、俺も思いついた考えを口にしてみた。
「つまり、魔法は空想の産物で、そんなものある訳がない。気は不確かながらも存在し、実際に使う事も出来る。"魔法"と"錬気術"は本来同じものなのに、それぞれの概念の違いによって別物になってしまった、という事か?」
「そういう事だと、俺は考えている。」
「じゃあ、どうして別物になってしまったのかしら?」
うん、エーリカの疑問はもっともだ。斉藤は更に続けた。
「それは、この世界では科学が発展したからだと思う。曲がりなりにも魔法という言葉があり、実際、神話や伝説、御伽噺にも出て来ている。だから、この世界にも太古には魔法があったのかもしれない。この世界には魔法やそれに類するものを邪教として弾圧した歴史がある。アレクサンドリアの図書館が焼かれたり、焚書坑儒があったり、魔女狩りがあったりと、その過程で魔法の知識や術者が失われたのではないだろうか。そして、近代になり科学力こそが力となり、決定的になった。しかし、国や地域、あるいは民族によっては完全には魔法は失われず、"気"という概念として細々と残った。」
斉藤の推論が終った。所々異世界のエルフにはわからないだろう内容も含まれていたが、実に説得力があった。
長い沈黙の後、エーリカが話を引き継いだ。
「そうだとすると、リュータとタケシが魔法を使えるようになるには、概念の転換が必要という事ね。どうしたものかしら。」
斉藤のお陰で、遂に正解にたどり着いた訳だけど、概念の転換なんて容易な事ではない。せっかく魔法が使えるようになれるかもしれないと思ったが、暫くお預けになりそうだ。
たがしかし、ここで思わぬ救世主が現れたのだ。
「そんなの簡単じゃない。タケシとリュータは魔法なんか無いって思ってたんでしょ?」
素朴な質問を口にするユーリカに頷く俺と斉藤。
「だったら、タケシとリュータが実際に私とお姉ちゃんの魔法を見て、魔力を感じて、魔法はあるんだって納得すればいいのよ。」
「「「なるほど。」」」
俺と斉藤は、火魔法でゴブリンの死骸を焼却するエーリカとユーリカを目撃しているが、自らが魔法を体感して、魔法の存在に納得した訳ではなかった。
「ねえ、お姉ちゃん。まずはあれをやってみればいいんじゃない?ほら、魔力交流。」
「そうね。それがいいわね。ユーリカ、冴えてるね。」
「えへへ、まあねえ。」
ユーリカの謎の提案に賛成するエーリカ。果たして、魔力交流とは如何なるものなのだろう。
「魔力交流っていうのはね、手を繋いだりして、お互いに魔力を体に流し合う事なのよ。」
相手に魔力を流す事によって、まだ魔法が上手く使えない子供に魔力を実感させたり、体内の魔力の流れが滞って体調を崩した時に、外から魔力を強制的に流して、魔力の流れを良くするのだそうだ。
確かに、魔力を直接、知覚として感じ取れば、信じる、信じないの次元ではなく、例えは悪いが、一度痛い思いをすれば、もう忘れないのと一緒だ。まあ、世の中には懲りない面々もいる訳だけど。
「そうだよ。考えちゃダメなんだよ。感じなきゃ!」
まさか、ここでユーリカの口からカンフー映画の名ゼリフが出て来るとは思わなかった。おっとりして、ほんわかしたキャラクターのユーリカだけど、実は切れ者なのかもしれない。
「じゃあ、リュータ、早速やってみましょう。手を出して。」
エーリカはそう言うと、差し出した俺の両手を包むように握った。
ちょっと、ドキッとする俺。
エーリカは更に俺の目を見上げるように見つめる。
「リュータ、私を信じて。私の魔力を受け入れてね。」
そう言って眼を閉じるエーリカ。すると、エーリカの全身が淡い緑色に光に包まれ、彼女の両手から俺の両手に、そして両腕に何か熱いエネルギーのようなものが流れ伝わって来るのがわかった。
「!!」
このエネルギーの流れが、エーリカの魔力なのだ。
「リュータ、私の魔力、感じる?」
「うん、感じるよ。」
「じゃあ、今度はリュータが私に魔力を流してみて?」
そう言われても勝手がわからなかったが、精神を集中させ、魔力が流れるイメージを描き、魔力(=気)を一気に自分の両腕を通じてエーリカの中へと注ぎ込んだ。
「あん!」
急にビクッと体を震わせ、可愛いくも色っぽい艶のある声で悲鳴をあげるエーリカ。
「もう!リュータ!いきなりそんな凄い魔力流されたらびっくりするじゃない!少しずつでいいのよ。」
「ごめん。」
俺はエーリカの抗議とアドバイスを聞いて、再び、今度は少しずつ、ゆっくりとエーリカの中に魔力を流していった。
「うん、その調子よ。これがリュータの魔力なのね。とっても熱いわ。これで魔力が本当に有るってわかったでしょ?」
「…うん、なんか、いいもんだね。」
「?」
魔力交流、最高!
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