第5話 異世界のエーリカ ユーリカ
「ねえ、さっきから黙っているけど、私の話ちゃんと聞いてる?それとも私達の言葉がわからないのかしら?」
金髪のエルフが少しイラだったように俺達に尋ねる。
「お姉ちゃん、その人さっき私達の事エルフって聞いたんだから言葉は通じているよ。」
「まあ、それもそうね。」
今の会話でこの2人のエルフが姉妹、もしくは姉妹に準じる関係にある事が窺えた。金髪さんがお姉さん、銀髪さんが妹ちゃんというわけだ。金髪お姉さんは少々キツめ、もしくは勝気な性格で、銀髪妹ちゃんはおっとり穏やかな性格のようだ。
と、そのように考えていると視線を感じ、金髪お姉さんがジト目で俺を見ている事に気付いた。
「あんた、今失礼な事考えてたでしょう?」
「?」
突然そう言われても、俺に思い当たる事は無い。強いて挙げるならば"少々キツめ"の部分だろうか。
だが、そういう女の子も俺は嫌いではないので失礼には当たらないだろう。
まあ、逆にこの事が彼女達に話し掛けるきっかけになったわけだが。
「別に失礼な事は考えてないよ。それよりも、まず礼を言わせてくれ。危ないところを助けてくれて有難う。」
俺が彼女達にそう礼を述べると、金髪お姉さんはまんざらでもない表情になった。
「うん、まあ、無事で良かったわ。」
「はい、間に合って良かったです。」
あの時、上手く奇襲が成功してゴブリンキングを倒し、戦力差を2:2に持ち込む事が出来た。戦力差が2:2なら彼女達の助けが無くても勝てたはずだ!とは俺は思わない。俺の手元の武器は鉈しか無く、斉藤にはスコップがあったが、そんな俺達が剣を持ったゴブリンウォーリアと対等以上に戦えるのか?と問われたならば、ちょと難しいかな?と答えざるを得無い。縦しんば勝てたとしても、こちらも無傷という事は無いだろう。そんなピンチを助けてくれたエルフ姉妹には大感謝だ。
だから、さっきからずっと空気になっている斉藤も彼女達に礼を述べなくてはならず、それがわからない斉藤ではない、はずなのだが。
「おい、タケ、お前も黙ってないで礼を言えよ。」
俺は振り向いて斉藤に礼を述べるよう促したのだが、その時、初めて斉藤の異常に気付いたのだ。斉藤はというと、銀髪妹ちゃんを凝視していた。
「…んまちゃんだ。」
「え?お前何言ってんだよ。」
斉藤は驚愕に歓喜を貼り付けたような、長年の友人である俺ですら若干引いてしまうような表情で、いつもの理知的なクールイケメンが台無しとなっている。
「リュウ、めんまちゃ」
「大体わたった。それ以上は言うな。」
そんな俺達のやり取りを、金銀のエルフ姉妹は不思議そうに見ていた。
まあ、俺達もなし崩し的にコミュニケーションを取る事が出来、お互いに敵対する存在ではないと認識出来てたので、まずは一安心。だが、そんな俺達の周りはゴブリン共の死骸だらけだったりする。
エルフ姉妹もそれが気になるのか、金髪お姉さんは周囲を見回すと呆れたように呟いた。
「随分派手にやったものね。」
「いきなり襲われたものでね。こいつらが何なのか知ってる?」
「ゴブリンという魔物よ。ゴブリンキングにゴブリンウォーリアまでいるなんて、そんな事は滅多に無いんだけど。」
金髪お姉さんは、そう言うとちょっと辟易した表情で再び周囲を見た。
「何をするにも、こんなのがあったら始まらないわよね。ユーリカ、全部燃やすわよ。」
「了解だよ、お姉ちゃん。」
エルフ姉妹は一番大きいゴブリンキングの死骸に両手をかざした。すると彼女達の両手から紅蓮の炎が放射されたのだ。
「「 !! 」」
魔法か?魔法なのか、これは⁉︎ 驚いた。斉藤も息を飲んで見ている。
魔物に襲われて戦い、エルフの姉妹に助けられた。そして、遂には魔法だ。一体何が起きているというのだろうか?
エルフ姉妹は、それから間もなくゴブリン共の死骸を全て焼き尽くし、更には魔法による強風で死骸を燃やした灰を吹き飛ばした。そうして、大量の死骸の処理問題はあっという間に解決した。
ゴブリン共の襲撃があってからどれだけの時間が経ったのか、焚き火は消えかかっていた。斉藤は聖地巡礼して巡り会った銀髪妹ちゃんに良いところを見せてたいのか、既にクールイケメンに戻っていて、薪をくべて火を起こし、薬罐でお湯を沸かした。まあ、異世界のエルフにも通用するといいけどな。
エルフの姉妹が、一体どこから(異世界だろうけどな)来たのか、あのゴブリン共もどこから(多分一緒だろうけど)来たのか。彼女達と話さなければならない事が一杯だ。しかし、彼女達も意に反して異世界に来てしまったのだとしたら、きっと不安に思っているはず。今は兎に角、お互い落ち着く事が必要だ。
「だいぶ冷えてきた。君達も疲れているだろう?良かったらこの小屋で休んでいてくれ。それで明日ゆっくり話そう。」
理知的クールイケメンに戻った斉藤が、エルフ姉妹にそう促した。
「気を使ってくれて有難う。でも、その前に名前を名乗らせてもらうわ。」
まだ自己紹介すらしていなかったとは、俺も迂闊だった。斉藤も案外、まだ戻りきっていないのか?
「私は、エルフのサバール支族、バル家のグローバが娘、エーリカ バル サバールよ。」
「妹のユーリカ バル サバールです。よろしくです。」
エーリカはどうだ、と言わんばかりに名乗った。「エーリカと呼ぶがよい!」とでも言いそうだ。続いて妹のユーリカも名乗り、可愛らしくちょこんとお辞儀をする。
「こちらも名前も名乗らず失礼した。俺は斉藤 岳、タケシが名前でサイトウが家名だ。こいつは友人で土方 竜太。リュウタが名前でヒジカタが家名だ。」
「よろしく。」
斉藤に先に言われてしまったが、それは別に良い。奴もユーリカちゃんにアピールしたいだろうからな。俺は手短に挨拶を済ませ、軽く頭を下げた。
「タケシにリュータね。よろしく。ところで疲れているところ悪いのだけど、私から一つ提案があるのだけど、いいかしら?」
エーリカの提案とは、先程ゴブリン共を倒したけど、まだ、この周囲には別の魔物が潜んでいないとも限らない。なので、交代で見張りをする必要がある、という物だった。
考えてみれば最もな話で、最早、この周辺は魔物がいる戦場や災害現場に類する危険地帯であると認識を改めなくてはならないだろう。俺と斉藤はエーリカの提案を受けて、見張りの準備に取り掛かった。
腕時計で時間を確認すると、時刻は22時を過ぎていた。これから夜明けまで魔物の襲撃を警戒しなければならない。交代で眠るにしても、長い夜になりそうだ。
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