ACT.5
”奴”は、何も言わずに緑川麻美らと
”奴”は
向こうも何か言い返そうとしたが、その迫力に気圧されたのか、それ以上何も言わずに尻尾を巻いた。
と、ふいに二頭の犬たちがうなり声を上げて身構える。
珍しいことだ。
盲導犬というのは人に危害を加えないように訓練されてあり、滅多に吠えたりうなったりという、威嚇行動はとらないものだ。
『マックス、アリア、ストップ!』
麻美が声をかける。
二頭は大人しく命令に従い、また元の通りに身を伏せる
『どうも申し訳ございません。この子たちは私たちを守ろうと・・・・』
彼女たちはすまなそうな声で”奴”に詫びを入れる。
『いや・・・・分かっています』
低い声でそう言って、
『では』と頭を下げ、歩き出した。
数メートル距離を置き、俺は奴が十分に離れてから、
『久しぶりの父娘対面はどうだった?ブラック・ハウンド?』
俺は後ろから声をかけたが、”奴”は、素知らぬふりをして、そのまま歩を進めた。
『悪いがちょっと付き合って貰いたい。俺の名前は
そう言って
『探偵風情が何の用だ?』
低音ボイスにもっと鋭い殺気を込めて答えた。
『仕事だよ。お前さんを捕まえてくれってさ』
『私立探偵ってのは、いつから
『貧乏人の
奴は黙って公園の中へ中へと入ってゆく。
都会の真ん中、しかもまだ日が高いというのに、公園には殆ど人気はなかった。
”奴”は植え込みに囲まれたベンチのある場所に着くと、いきなり振り返り、懐からトカレフを抜き、引き金を引く。
一瞬早く、俺は横っ飛びに飛ぶと、M1917を抜いた。
左太腿に焼け火箸でも突っ込まれるような熱い痛みを感じた、構わずにこちらも3連射する。
一発は逸れ、一発は右肩、二発目は奴の右わき腹をかすった。
勝負はそれで終わった。
三発目が鳴りやむと、物陰に隠れていた私服、制服合わせて1ダースほどが飛び出してきて、俺達に向かって.38口径の銃口を向ける。
『銃を棄てろ。動くな。撃つぞ!撃つぞ!撃つぞ!』
先頭の一人がわざとらしく教科書通りの声を出した。
俺は言われた通り銃を土の上に落とし、太腿を庇いながら、両手を高々と上げた。
折角大物ひっ捕らえるのを
制服が二人がかりで”奴”からトカレフをもぎ取り、
別の制服が俺にも打とうとしたが、俺はシナモンスティックを咥え、
『善良なる市民が、凶悪犯逮捕に協力したんだぜ。感謝状の一枚も貰いたいくらいだ。どうしても連れてくなら、便所を優先させてくれないか』と言ってやった。
一番先に叫んだリーダー格らしい私服(初めて見る顔だ)が、苦い顔をしながら制服を押し止め、
『・・・・兎に角、都会の公園で銃撃戦をやらかしたんだ。後で警察署に顔を出せよ』そうぬかして背を向けて去っていった。
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