ACT.3
緑川麻美は、事実上母親の手一つで育てられた。
母親はシングルマザーというやつで、学校の教師をしながら、娘一人を育て上げたという訳だ。
母親は麻美に、ブラック・ハウンドの事については一切語っていない。
二人がいつ、どういう
だから彼女は父親のことは全く知らない。
生前幾度か訊ねてみたことはあったそうだが、
”知らない方が貴方のためよ”としか答えなかったという。
麻美はその後、母のすぐ上の姉、つまりは伯母夫婦によって育てられ、目が不自由ながら、学業では常に優秀な成績を収めて大学に進学し、心理学を学び、今では
視覚障碍者のためのセラピストとして働いているという。
『実はね、”ブラック・ハウンド”が日本に潜伏していることが分かったの。』
彼女はまた煙を吐いた。
他に客はいなかったが、狭い店内は独特の匂いのする
幾らここがスモーカーにとって天国であり、俺自身、嫌煙主義者でもないと言ったって、このガス攻撃には流石に辟易してきた。
『少し控えてくれんかね?ガスには耐性が出来ちゃいるが、それだって限度がある』
彼女はごめんなさいと言って、シガレットケースとジッポをしまった。
何でも、ブラック・ハウンドは今度日本国内で開かれるアジア五か国の蔵相会議を妨害しようという筋から依頼を受け、潜入したらしい。
日本の地を踏むのは、恐らくこれで最後になる。だったらせめて
『しかしそんなことのために、わざわざ俺みたような名もない私立探偵風情に捜査の協力なんか求めなくてもいいだろう。何しろ組織力が違うんだぜ。
彼女はカプチーノを飲み干し、二杯目をオーダーしてから、
『勿論彼がその辺のちんけなテロリストだったらそうするでしょう。でも”ブラック・ハウンド”よ?中東の某国で独裁権力を振るっていた大統領を暗殺した後、二千人からの親衛隊をたった一人で壊滅してみせた男よ?日本の警察ぐらいで相手になると思って?』
些か悔しそうにそう言った。
なるほど、確かにそうだな。
それに、幾らなんでも実の娘を前に彼女の父親と銃撃戦なんて荒事が”愛される警察”に出来る筈もない。
『そこでしがない私立探偵の出番だ。民間人なら”あいつが勝手にやったことです。
当方は感知せぬところであります。”で逃げれば、
俺の歯に衣を着せぬ皮肉に、マリーは別に嫌な顔もせずに、
『そうよ。それがどうしたの』と来た。
まあいい、ここまではっきり言われたんじゃあ、却ってすっきりするってなもんだ。
それに俺の方だって、”背に腹は何とやら”だ。
『分かった。引き受けよう。その代わり吹っかけさせて貰うぜ。探偵料と必要経費は通常の三倍増し、当然危険手当も同じだ。この条件を呑むなら・・・・』
マリーは皆まで言わせず、
『オーケイ、強欲な
いともあっさりと承知した。
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