第5話 ラストチャンス。

 流れのまま、紫も自己紹介を始めていく。

「私の名前は、かいどうおんです。ハンドルネームの“紫”は紫音の字から取ったものですね。あ、ちなみに“天使”は特に意味はないです」

 意味なかったのか。てっきり紫……いや、紫音が可愛いからかと思ってた。

「あと、高校は青蘭せいらん女子高校ですよ」

せいじょか……。確かあれか、制服が人気なところ」

「そうなんです! 周りの皆さんも可愛い子がいっぱいで癒されます」

 いやいや、それは周りのセリフなんじゃ……。と思ったが、声には出さなかった。

 青蘭女子と言えば、制服が有名であるとともに美女ぞろいなことから青蘭女子の青の読み方を取って付けられた、『聖女』という通称を持った高校だ。まあこんなに可愛い人がいるなら納得だ。

「気になったんですが、雷斗の身長ってどれくらいあるんですか? 隣で話すときに気になったんですけど……」

「身長か……。だいたい百七十五くらいはあるんじゃないかな。あんま気にしたことなかったけど」

 そう言うと、紫音は目を見開いて固まっている。明らかに驚いているな、これは。

「そ、そんなに驚くことか?」

「はい、そりゃそうですよ! だって容姿が整っているのに加えてスタイルまでばつぐ、ん……」

 そこまで話してばっと顔を隠している紫音。でも隠しきれておらず、真っ赤な耳が見えた。

 対して俺は、紫音と同じく赤面するも、俺がかっこいいわけないし紫音はまさに天使だということを悶々と考えた。

 まるでプリクラのときのようで、思わず笑ってしまう。それは彼女も同じだったようで、ふたりして笑っていた。


「もう、帰らなきゃいけないんですよね……」

「そう、だな」

 感じていたよりもずっと早く時が進み、もう電車に乗って紫音を駅まで送らなければならない時間に迫ってきた。

 ……このまま、気持ちを伝えないまま別れるのか? 俺たちは。

 それは、嫌かもしれない。最初こそ隠し通そうと思っていたものの、今では彼女の声や小さなしぐさですら愛おしいと思えるほどに恋心が膨らんでしまっている。

 時間に余裕はそれほどない。だけど、伝えるしかないよな。

「それじゃあ行きま……」

「あと少しだけ、時間をくれないか?」

 紫音の声を遮ったのは、紛れもなく俺だ。今しかチャンスはないだろうと思ったから。

 俺の真剣な表情に気付いたらしい彼女も、多少不思議そうにしながらもこちらを向きなおしてくれた。


「あのさ、俺……紫音が好きだ」

 今、俺の顔は絶対に真っ赤だ。全身のほてりを感じている。だがそれが気にならないくらい、紫音の顔が赤く染まっていた。

 数秒たったのにもかかわらず、その表情は変わる気配がない。

「紫音……?」

「あっご、ごめんなさい。びっくりしすぎちゃって……」

 恐る恐る声をかけてみると、ハッとしたように謝ってきた。一瞬、断られたのかと思った。

 紫音はなんと思ったのだろうか。気持ち悪がられてしまったのだろうか。

「えと、その……。わ、私も、好き……です」

「……え?」

 今の言葉は幻聴だろうか。空耳か? いやいや、紫音が俺を、好きなんてそんなことありえるのか?

 そもそも俺じゃあ紫音に並ぶどころか、青春を謳歌することすらまともにしてきていないのに。

「あ、あの。雷斗は私のことを考えて行動してくれたし、今まででいちばん楽しい思い出になったし、それに、……かっこいいから」

 緊張しながらも話していると伺える、しどろもどろな口調からは、嘘などついているとは思えない。ということは、本当に?

「俺も、紫音の普段見れない一面が見られて、改めて好きになったんだ。だから……」

 一度、深く深く呼吸する。これを言い逃してはいけないから。

「俺と付き合ってくれますか?」

 目の前を見ると、その目には涙が浮かんでいた。

「はいっ! よろしくお願いします!」

 最後には涙をぬぐい、可愛らしい笑顔を向けてくれた。


 俺は、いつまでこの笑顔を見ていられるのだろうか。

 いつか愛想をつかされてしまうのだろうか。

 彼女になった君に嫌われないように、それでいて嘘はつかないように、俺たちらしく付き合いたい。

 そして、できるならば墓場まで一緒にいたい。

 なんて思っていたら気持ち悪いだろうか。


 ◈◈◈


 作者です。花空です。こちら、最終話になります。最後までご拝読いただきまして、ありがとうございました。書いている期間がバラバラなため、おかしな部分がたくさんあるかと思いますが、カクヨムコン6に参加させていただいております。そのためコメントやレビュー等でアドバイスを頂けたらと存じます。よろしくお願いします( ᵕᴗᵕ )

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