第4話 お別れ前に。
それから約二分間のデコレーションタイム。ノリノリの紫と不愛想な俺がなかなかのミスマッチだ。撮られた写真を見てみれば一目瞭然だし、容姿の整っている彼女とそうでない俺の双方の目や顔が盛られていても俺のカッコ悪さが目立つだけだった。
「見てください! 雷界が可愛くなりましたよ。かっこいい人もかわい……」
そこまで言ったところで赤面して口を結んだ。
今、紫はなんて言った? かっこいいって……。いや、俺の空耳だよな。きっとそうだ。そう考えると自分で悲しくなるが納得がいくもんな。
「う、嘘……ではなくてっ事実なんですけど……。えーっと、その、うぅ」
「そ、そんなこと言われても俺も恥ずかしいんだが」
ふたりとも赤面して、空気を読まない機械が『あと十秒! 九、八……』と元気よくカウントダウンを始めたことで救われた。
でき上ったプリクラを見て紫は満足のようで、さっきのことなどなかったように飛び跳ねん勢いで喜んでいる。
「喜ぶのはいいんだけど、これはどうすればいいんだ?」
用途が全くわからない俺はただ質問することしかできなかった。
「例えば透明のスマホケースに挟んで見えるようにしたり、お財布にしまっておいたりするんですよ。あこがれてたので雷界と一緒にできてよかったです!」
紫は俺を赤面させる天才なんだろうか。天然の天使だ。癒しだ。それ以上に可愛らしい小悪魔だ。本気でそう思わざるを得なかった。
そのあとも様々なゲームをした。コインゲームや昔ながらのファイティングゲームだ。それらをしていたら時間は思っていたよりも断然早く過ぎて行き、あっという間に午後六時を回っていた。
「もうすぐでお別れですね……。さみしいです」
「……ああ、そうだな」
そう、俺たちが一緒にいるのは午後七時まで。紫の家の最寄り駅まで送るということまで含めて、だ。どうやら親がそれでなくては不安なので、帰りに送ってもらうのならばという条件のもと、この約束を取り付けられたのだ。
ここで遊んでいられるのもあと三十分もないな……。
「さて、最後はなにをするんだ?」
「えーっと、順番がおかしいかもしれないんですが、最後にお互いをちゃんと知りたいです」
なるほど。確かに自己紹介もネットでパパっと済ませた程度で、ほとんどなにも知らない。
「それならすぐそこのカフェにでも入って話そうか」
「はい!」
俺たちが入ったカフェは隠れ家的なようで、ゆったりとした音楽が流れている。
「なにか適当に飲み物を頼みましょうか」
紫が取り出したメニューには、コーヒーやカフェオレ、ストレートティーなどのドリンクが書いてあった。その中から俺はブラックコーヒーを、紫はミルクティーを注文した。
「自己紹介、っていうことでいいんだよな?」
「はい」
時間は三十分とない、限られている。その中でどれほどをお互いで知ることができるのだろうか。
「まずは俺から。本名は、石橋雷斗。年齢は紫も知っての通り高校二年の十七歳。高校は割と近くにある、朝露高校だ」
「えっ朝露って、結構偏差値高かったと思うんですが! 雷界……じゃなくて、雷斗は相当頭がいいんですね!」
「そうか? 俺が自分で選んだわけでもないから、なんとも……。学内でもそこまで注目されるようなことは……」
あった。でもこれくらいじゃそこまででもないし、別に言わなくてもいいか。
「なんですか? 途中で切れたりしたら気になるじゃないですか」
「いや、そこまでのことじゃ」
「言ってください!」
「……ああ。入学式で新入生代表をしただけだよ」
あのときは最悪だった。たかが受験の結果だけで、陰キャの俺に新入生と在校生の前で長々としたスピーチをさせられたんだよな……。
「それは災難でしたね……。私はそういう類のものはないです」
あんな地獄のようなこと、一生やりたくないと思い返した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます