第2話 ランチタイム。
「次はご飯に行きませんか? そろそろお昼ですし」
「ああ、もうそんな時間か」
スマホで時間を確認すると、すでに十二時を回っている。集合が十時でアクセサリーを物色していたから、時間が過ぎるのが早かったのかもしれない。
「なに食べたいか?」
「えー、今回は雷界が決めてくださいよ。さっきは決めさせてくれましたもん」
俺に任せるといわれてもな。おしゃれなレストランとか知らないし、そもそもいつもジャンクフードを食べているんだからわざわざ連れて行っても意味がないと思うんだが。
「私はどこでもいいんです。雷界の好きなものなら」
「っ……」
なんだその好きな人に言うような言葉は。勘違いするな、俺。紫がこんな俺のことを好きになるはずがないからな。
ぶんぶんと頭を振って変な考えを吹き飛ばしてなにがいいかに思考を巡らせた。
「ジャンクフードでいいなら、俺の好きなハンバーガーの店があるよ」
「本当ですか! ではそこに行きましょう」
こうして俺がよく行く店に向かうこととなった。
「ほう……。これが雷界がよく頼むハンバーガーなんですね。滅多に食べに来ないので、来れてうれしいです」
そりゃあそうだろうな、と言いかけてその言葉は喉元までにとどめておいた。食べに来ないというイメージで言うだけだとただ失礼な人だからな。それにしても……。
「食べきれるのか?」
気になっていたのは紫の頼んだセット。『いつも雷界が食べているものが食べたいです!』と言われてやめておいた方がいいと何度も説得したにもかかわらず、頼んでしまった。なぜ説得したかって? そんなの量が多いからに決まっている。
普段食べているものはハンバーガがふたつにポテトとナゲットが付いた、明らかに女子ひとりでは食べきれないであろうものだ。『大丈夫です!』と胸を張って言われてしまってあきらめたが、本当に大丈夫なんだろうか。
数分後。紫は案の定半分を残してお腹を膨らませてテーブルに伸びていた。その余りはいったいどうするんだ。持ち帰るにしても荷物が増えるだけじゃないか。
「雷界、違うの頼んでましたよね。それって量少なかったですよね。じゃあ――」
まさか……、いやでもそんなわけないよな。俺に頼むなんてないよな?
「雷界が食べてください」
ああ、やっぱりそうなるよな。わかってたよ、最初から。少しは俺の気持ちも考えてほしい。
好きな人が食べたものを食べるなんて緊張するに決まっている。というか恥ずかしい。でも最後まで止めなかった俺も俺、だよな。はあ。
「……わかったよ。食べればいいんだろ」
心でため息をつきながら食べ始める。誰が食べようと、これがうまいことに変わりはないし、食べ物を粗末にするのは気が引ける。紫も食べてもらえて安心したようで、にこにこしている。これは一件落着ということでいいのだろうか。
「さーて、次はなにをしますか?」
「次か。普段学校以外は外に出ないから、なにをすればいいのか全くわかんないんだけど」
「それは私もそうです。欲しいものは買っちゃいましたしねえ。ここに来てゲームもおかしいですし……」
そうか、いつも家でゲームをしている俺たちは外でなにをすればいいのかわからないんだ。どうしようもないじゃないか。
……ん? ゲーム? それだ!
「ゲームセンターに行くのはどうだ? これなら外でゲームをしていても普通のところだし、家じゃできないものもあると思うんだ」
「はっ、たしかにそうでした。いいですね。着いたらゲーム以外にもやりたいことを見つけてしまいました!」
そう言う彼女の顔は、なにかをたくらむようなにんまりとした笑顔だ。まずい、これはなにかが起きる。なにが起きるんだ?
不安を抱きながらも目的の場所へ向かった。
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