ネットで始まった、俺の恋

花空

第1話 初めて会う人と。

 今日俺は、ずっと会いたかった人と会うことになっている。

 それは『ネッ友』であり、俺の──好きな人でもあるから。

 彼女のハンドルネームは『むらさきてん使』となぜこのネーミングにしたのかはわからないが、元は同じゲームでペアを組んでプレイしていたことからだったので特に気にならない。俺は彼女のことを『紫』と呼んでいる。

 本名はまだ知らないが、ネットで話してその人柄がわかったからそれでいいとも思っている。唯一知っているのは女子ということと年が高校二年だということ。年齢は俺も同じだ。

 できれば告白でもしたいところだが、そんなことして気まずくなったり話せなくなると……、と色々考えてしまって決断できないでいる。


『今着きましたよ〜。らいかいはどこにいますか?』

 雷界とは俺のハンドルネームであり、本名はいしばしらいだ。

『俺ももうすぐ着くよ』

 集合は駅前の時計だったな。えーと、あれか。

『着いたぞ。どの人が紫だ?』

『手をあげるので探してください!』

 手をあげてる人、おっいたな。

「あの、紫の天使ですか?」

「あ、はい! 雷界ですか?」

「おう。今日はよろしくな」

 見つけたその姿はいかにも美少女と呼ばれる部類に入る容姿だ。冬の今にぴったりな、暖かそうなベージュのロングコートに黒色のショートブーツ。

 一目でクローゼットを開けて、手に取ったものを適当に着てきただけとわかってしまう俺なんかには、到底見合う人ではないとわかってしまった。今日は存分に楽しむことだけを考えよう。

「あ、あの。どこに行きますか?」

「そうだなあ。なんか好きなものとかあるか? 買いたいものとか」

 そう言った瞬間、彼女は目をきらきらとさせて「アクセサリー……!」と即答した。そして直後俯いた。

「でも雷界は男の子だもんね。うーん……」

 もしかして俺が知らないとでも思ったのだろうか。それとも男はたいがい楽しめないからか? そんなんはどうでもいい。

「いいよ、行こうか」

「え、いいんですか? た、楽しめます?」

「もちろんだ。紫に似合うやつを探してやる」

 笑顔で話しかければ「やった!」と小さくガッツポーズをした。やばい、可愛い。


 それからやって来たのは、駅から少し離れたショッピングモール。ここにはたくさんのおしゃれな店があると聞いたことがあるので連れて来た。

 来たのだが、俺にはセンスたるものが皆無ということを忘れていた。なんとか頑張るしかない。

「あ、このお店どうですか? 高校生におすすめですって!」

「いいんじゃないか? 俺あんまりセンスないから聞かない方がいいかもしれない」

「いいもん! 雷界が決めたものなら私が買ってつけるもん!」

「っ!」

 なんだよ『もん』って。可愛すぎだろ。

「あー、わかった。入ろうか」

「やったー!」

 会ったばかりのやつが言うのもおかしいかもしれないが、紫にはこのたまに子どもっぽくなるところを直してもらいたい。

 いつまでも続けられると心臓が持ちそうにないからな。なんてことは絶対に言わないが。


「これなんてどうですか?」

 そう言って見せてきたのは、星型のストーンがついたネックレス。たしかにこれは綺麗だし、紫にも似合うと思う。だけど俺だったら──

「この紫色の羽の方が紫っぽくていいんじゃないか? ハンドルネームに合うと思うんだ。本名知らないからなんとも言えないんだが……」

 俺が彼女に差し出したのは、紫色の片翼のついたネックレスだ。彼女の本当の名前がわからない今、これがいちばん紫の印象にぴったりだった。

「あっ、これ綺麗です。これにします!」

「え、そんな即決して平気なのか?」

「はいっ! これはバッチリですから」

 そう思ってもらえたならまあよかった。

 紫が会計から戻ってくると、なぜか袋がふたつ増えている。なにか新しく見つけたのだろうか。

「じゃーん! 見てくださいこれ。かっこよくないですか!」

 袋から取り出されたものは、黄色の雷を型どったストラップと同じく雷の形をしている紫色のそれ。

「黄色いのは私からのプレゼントです。センス悪いとか言いながら結構いい感じの選んでくれたので!」

 紫が買っていたのはおそろいのものだった。嬉しくて頬が緩むのを我慢しながら受け取ってスマホにつける。普段はあまりアクセサリー類をつけることがないが、紫がくれたとなれば話は別だった。

「ありがとう。大事にするよ」

 男子が女子にものをもらうというのは普通で言えば立場が逆だろうが、彼女が選んでくれたものならそんなことはどうでもよかった。

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