《 第65話 12年ぶり 》
その日の夜。
僕たちはスンディル王国の王都に帰ってきた。
いつも長旅から帰ると街並みに変わりがないかチェックするドラミだけど、今日は違った。
「こっちなのだ!」
僕たちを置いていきそうなスピードで、先へ先へと進んでいく。
早くガーネットさんを喜ばせたくて仕方がないみたい。
僕もドラミと同じ気持ちだ。オニキスさんを置いていかないスピードで、大通りを進んでいく。
そんな僕たちに町のひとたちが声をかけてきた。
「おかえりなさい! ジェイドさん! ドラミさん!」
「ただいまなのだ~!」
「遅くまでご苦労様です!」
「ありがとうございます!」
「ずいぶん慕われているな。あのときの坊主が、本当に立派になったな……」
「次はドラミが立派になる番なのだ! もっともっと冒険して、十つ花になってやるのだ!」
ドラミは足を急がせながら、愛おしそうに手の甲をさする。
三つ花になったのが本当に嬉しいみたい。
自分の実力を確かめるため、アイス王国の街中で魔法を使おうとしたほどだ。
もちろん止めたけど。三つ花ともなると不用意に使えば大事になってしまうから。
「早くマリンと冒険したいのだ~」
そんなわけで三つ花となって初となる魔法はマリンちゃんとのクエストまで取っておくことにしたのだった。
意気揚々と家路につき、僕らの家が見えてきた。
「あそこがドラミたちの家なのだ~!」
「そしてその手前にあるのがガーネットさんの家です!」
「そうか、あの家が……」
オニキスさんの顔がじわじわと強ばっていく。
娘との再会に緊張しているみたいだ。
オニキスさんにとっては数週間ぶりの再会だけど、ガーネットさんにとっては実に12年ぶりの再会だ。
長いこと家を離れたことで、愛想を尽かされたんじゃないかと心配してしまったのだろう。
もちろん、それはありえない。
ガーネットさんはオニキスさんと再会したくてギルド職員になったのだから。
ガーネットさんがどれだけオニキスさんに会いたがっているかについては、ここへ至るまでに説明した。
それでもオニキスさんは不安を拭えていないのだ。
……気持ちはわかるけど。僕もガーネットさんに「交際は必ず認めてもらえる」と言われたけど、不安を消し飛ばすことはできなかったし。
いまだってどきどきしている。
このあとオニキスさんに交際を打ち明けるのだと思うと……緊張するなぁ。
「ガーネット! ドラミなのだ! 帰ってきたのだ!」
ドラミが思いきりドアをノックする。
と、すぐにドアが開いた。
ガーネットさんだ!
もうお風呂に入ったみたい。パジャマ姿も可愛いなぁ……。
「ふたりとも、おかえりなさ……」
嬉しげに僕らを迎え入れようとして、ガーネットさんが口を閉ざす。
ほうけたようにオニキスさんを見つめ……
その顔に、じわじわと喜びが広がっていく。
「お父さん……帰ってきてくれたのね……」
「あ、ああ、心配かけてすまなかった……本当に見違えたな……」
「12年ぶりだもの。見違えて当然だわ」
「俺にとってはつい先日、小さなガーネットに見送られたばかりだからな……。長いこと家を空けてしまって、本当にすまなかった……」
「もういいのよ。だって帰ってきてくれたんだもの。お母さんもマリンもお父さんに会いたがっているわ」
「マリンも……?」
「ええ。私とお母さんが、よくお父さんの話を聞かせていたもの」
「そ、そうか……ではマリンが冒険者になったのは、俺に憧れて……?」
「ジェイドくんに憧れてよ」
「そ、そうか……」
「……なんかすみません」
「い、いや、謝ることはない。若くして十つ花になったのだから、むしろ憧れて当然だろう」
「ちなみにドラミはこの歳で三つ花になったのだ!」
「本当だわ。成長したのね」
「うむ! ものすご~く強い魔獣をジェイドと一緒に倒したのだ! 一気に三つ花になるくらい強い魔獣だったのだ!」
「メデューサね?」
「うむ! だけどメデューサはすでに金ぴかになってたのだ!」
「僕たちが戦ったのは花紋付きのミミックなんです」
「そいつは触れたものすべてを金ぴかにしちゃう魔獣だったのだ!」
「ミミックはメデューサを金ぴかにして、城を黄金に変えて、そこを根城にしてたんです!」
「ドラミが雪像を作ってミミックをおびき寄せたのだ!」
「最初は宝剣で倒そうとしたんですけど失敗しちゃいまして」
「ドラミソードと小石を渡そうとしたけど失敗しちゃったのだ!」
「なのでかかと落としで倒しました!」
「ジェイドがミミックの攻撃を手で受け止めたときは本当に心臓が止まるかと思ったのだ!」
「一か八かの賭けでしたけどガーネットさんの手袋のおかげで金ぴかになる前に倒すことができたんです!」
「ドラミはバラバラになるミミックを堂々と見据えていたのだ……!」
「そのあとドラミと廃城に駆けこんで――って、すみません。僕らだけで盛り上がっちゃって」
ひさしぶりにガーネットさんに会えてテンションが上がっちゃった。
ガーネットさんは僕らを見つめ、にこやかにほほ笑みかけてくる。
「いいのよ。楽しそうにおしゃべりするふたりを見ていると、私も楽しくなってくるもの。また元気なふたりの顔を見ることができて、本当によかったわ」
「僕もです! 僕もガーネットさんの顔を見ることができて本当に嬉しいです!」
「ドラミも嬉しいのだ! ご飯を食べながら、じっくり顔を見たいのだ……!」
「これから食事を作るところよ。入ってちょうだい」
「いいんですか? せっかく再会できたんですから、親子水入らずのほうが……」
「みんなで食べたほうが美味しいわ」
「ドラミもそう思うのだ! ――そうだっ、モモチは元気にしてるのだ?」
「ええ。スクスク育っているわ」
「育ててくれてありがとなのだ! ドラミとモモチ、どっちがより成長したか勝負なのだ!」
ドラミは家に駆けこんでいく。
それを追いかけようとして――
「いまのうちに確認しておきたいんだが、ふたりは交際しているということでいいんだよな?」
と、オニキスさんに呼び止められた。
えっ、ええ!? なんで!?
「どうしてわかったんですか!?」
「ふたりの顔を見ればわかるが……そうか、本当に付き合っているんだな」
「す、すみません! 言おうとは思っていたんですけどオニキスさんが驚くだろうと思いまして! あ、あと打ち明ける心の準備ができてなかったと言いますか……仰る通り、娘さんとお付き合いさせていただいてます!」
「そうか。これからも娘を頼む」
「も、もちろんです――って、いいんですか!?」
こ、こんなにあっさり認められちゃっていいのか?
だって、ガーネットさんは綺麗で優しくて料理上手で声まで可愛い品のある素敵な女性なのに……。
「きみは娘のために命懸けで俺を助けてくれたじゃないか。それは娘を心から愛していないとできないことだ。それにガーネットは心からきみを慕っているように見えるからな。だから、これからも娘を頼んだぞ」
「は、はい! ありがとうございます! これからも全力でガーネットさんを幸せにしてみせます!」
よかった!
交際を認めてもらえて本当によかった!
「ところで、サンドラはふたりの交際を知っているのか?」
「はい。サンドラさんには以前お会いした際に打ち明けました」
「私たちの交際を認めてくれたわ」
「そうか。まあ、そうだろうな。彼との交際に反対する理由が、まるで思いつかないからな。……サンドラは元気にしているか?」
「ええ。お母さんもマリンも元気にしているわ。明後日から3日間休みをもらってるから、私たちと一緒に帰ってほしいわ」
「僕たちもいいんですか?」
「ええ。ジェイドくんとドラミちゃんが一緒だと、お母さんとマリンも喜ぶわ。……来てくれるかしら?」
「もちろんです! また行きたいと思ってましたからっ!」
僕が声を弾ませていると、ドラミが外に出てきた。
「どうして誰も入ってこないのだ……」
「ごめんごめん。つい話しこんじゃって」
「いま料理を作るわ」
「ドラミもお手伝いをするのだっ! 三つ花になったドラミのお手伝い、見せてやるのだ!」
「見るのが楽しみだわ」
そうして僕たちはガーネットさんの家に入り、楽しい夜を過ごすのだった。
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