《 第64話 恋人のお父さん 》

 日が暮れて間もなくした頃――



「到着なのだ~!」



 僕たちはアイス王国の王都に帰りついた。


 六つ花クラス以上の冒険者が力を合わせたおかげで、あっという間の帰還だった。



「な、何事だ……?」


「なぜ上空から……」



 突然空から団体が舞い降り、町のひとたちが困惑する。


 一方で、冒険者たちも困惑していた。



「街並みが……街並みが変わっている……」


「あああッ! 馴染みの飯屋がない!?」


「あの飯屋、美味かったのになぁ」


「看板娘も可愛かったなぁ」


「その看板娘、おそらく私の母です」


「あの看板娘の娘さんなのかい!?」


「てことは、きみがあの小さな女の子……?」


「私をご存じなのですか?」


「いつもお母さんの背中にべったりで、私の顔を見て号泣していたよ」


「すみません、昔は人見知りでしたので……。ちなみに店は移転しただけですから、今度みなさんご一緒に食べに来てください」


「ああ、必ず行くよ」



 長い年月が経ち、なかには知り合いがいなくなったひともいるだろう。


 天涯孤独になるかもと心細そうにしていたひともいたけど……


 新たな知り合いを得て、ちょっぴり不安が薄れたようだ。



「話はあとなのだ! 早くギルドに入るのだ!」



 ドラミの案内で、僕たちはギルドの正面に着地していた。


 ドラミに先導され、さっそくギルド内へ向かう。


 ぞろぞろと団体が訪れ、ギルド内で閉館作業を進めていた職員たちは困惑顔だ。



「申し訳ございません。本日の業務は――」


「違うのだ! クエストを受けに来たんじゃないのだ!」


「そ、その声、ドラミさんですか!?」



 窓口にいた受付嬢がこちらへ駆ける。


 先日、ギルドマスターとの橋渡しをしてくれた受付嬢だ。



「メデューサを倒して、みんなを連れて帰りました!」


「ドラミとジェイドが力を合わせて倒したのだ!」



 僕たちの話を聞きながらも、受付嬢の視線はうしろの冒険者たちに釘付けだ。


 期待と不安が混ざった表情で、冒険者たちの顔を見まわして――



「あなた!」



 4年前に生き別れになった旦那さんを見つけ、涙ながらに駆け寄った。



「また会えてよかったわ……」


「心配かけてすまなかった……娘は元気にしているか?」


「ええ! もう10歳になったわ!」


「そうか。もう10歳に……私のことは覚えているか?」


「もちろんよ! 毎日あなたの話をしているわ!」



 嬉しそうに声を弾ませる受付嬢。


 その声を聞きつけ、ギルドマスターが奥の扉から姿を見せる。



「おおっ! ジェイド様! ドラミさん! 無事に帰ってこられたのですね!」


「うむ! メデューサを倒してみんなを助けたのだ!」


「念のため、リストと照らし合わせて全員いるか確認してくれませんか?」


「もちろんでございます! 特別窓口にてご確認させていただきます! さあさあ、どうぞこちらへ!」



 冒険者たちが二階へ上がっていく。


 僕たちは一階の椅子に腰かけ、オニキスさんを待つことに。



「本当にあのなかにオニキスがいたのだ?」


「うん。ドラミに凍傷薬をくれたひとだよ」


「気づかなかったのだ……。でも見つかってよかったのだ!」


「だねっ! あとは一緒に帰るだけだよ!」


「ガーネット、喜ぶに違いないのだ!」


「オニキスさんはびっくりするだろうね。小さかった娘が大きくなってるんだから」


「びっくりして心臓が止まったら大変なのだ。いろいろ教えておかないとなのだ」


「だけど僕とガーネットさんの関係は秘密にしててね」


「どうしてなのだ?」


「緊張するからさ。それに一度にたくさんの情報を伝えちゃったら、オニキスさんがびっくりするからね」



 僕たちの関係を明かすのは、ガーネットさんと引き合わせてからだ。


 その瞬間が訪れるまでに、僕も心の準備をしておかないと。



「本当に助けてくれてありがとう!」


「どういたしましてなのだ~」


「きみたちにはなんてお礼を言ったらいいか……」


「お気になさらないでください!」



 確認を終えた冒険者たちがひとりまたひとりと下りてきて、僕たちにお礼を言ってギルドを去っていく。


 それを何度か繰り返していると、オニキスさんが下りてきた。



「本当にありがとう。きみたちのおかげで助かった」


「どういたしましてなのだ!」


「と、ところで、僕の顔に見覚えありませんか?」


「きみの顔に……?」



 オニキスさんが僕の顔をまじまじと見る。



「記憶にないが……きみは俺を知っているのか?」


「もちろんです! 僕はオニキスさんの冒険譚に憧れて冒険者になったんですから! 12年前の話ですけど、僕は昨日のことのように覚えてます!」


「冒険譚……」



 オニキスさんは、ハッとする。



「まさか、カサド村の坊主か?」


「はい! カサド村の坊主です!」


「そ、そうか……あの坊主が十つ花になったか……頑張って冒険したんだな」


「はいっ! 毎日ギルドに通ってクエストを受け続けました! そのとき受付を担当してくれたのが、ガーネットさん――オニキスさんの娘さんなんです!」


「ガーネットが受付嬢に……? あの小さかった娘が……もう働ける歳になっているのか……」


「ガーネットさんがギルドの職員になったのは、12年くらい前ですよ」


「その歳でなぜギルド職員に……」


「オニキスさんの手がかりを見つけるためだって言ってました」


「そ、そうか……娘には心配をかけてしまったな……元気にしているのか?」


「はい! とっても!」


「ガーネットはもちろん、マリンも元気にしてるのだ!」


「……マリン?」


「ガーネットの妹で、ドラミの大親友なのだ!」


「そ、そうか……妻は妊娠していたが……女の子だったか……」


「ものすごく可愛くて優しい女の子に育ってるのだ! 早く帰って顔を見せてあげるのだ!」


「マリンもガーネットの家にいるのか?」


「マリンは実家にいるのだ! ドラミたちはガーネットと家がお隣で仲良しだから、実家に遊びに連れてってもらったのだ!」


「実家に遊びに……」



 まずい! ガーネットさんとの関係を怪しまれてしまう!


 関係を悟られる前に話を切り上げなきゃ!



「と、とにかくガーネットさんが会いたがってますから! 家までご案内します!」


「ドラミたちについてくるといいのだ!」


「ありがとう。きみたちについていくとしよう」



 そうして無事に話がまとまり、ギルドマスターから全員無事に帰還したとの報告を受けてから、僕たちはギルドをあとにしたのだった。

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