《 第63話 蘇った人々 》
「き、きみたち! こっち……! 早くこっちへ……!」
「そこを歩くと危ないぞ……!」
「目立てば石にされてしまう……!」
城門を抜け、正面の扉へ駆けていると、壁際から声がした。
正面扉の奥で黄金像になっていた冒険者たちだ。
「もう怖がらなくていいのだ!」
「メデューサは僕たちが倒しましたから!」
おじさんたちのもとへ駆け、明るい声で告げる。
すると戸惑うように僕らを見て、
「き、きみたちが、メデューサを……?」
「そ、それは本当か?」
「あのバケモノを、いったいどうやって……」
「ジェイドが顔にパンチして倒したのだ!」
「メデューサの顔に……?」
「な、なぜ石化しなかったんだ……?」
「メデューサも金ぴかになってたからなのだ!」
「金ぴか……?」
おじさんたちが、めちゃくちゃ困惑する。
石化中は視覚も聴覚も機能せず、さらに記憶もないようだ。
おじさんたちにしてみれば、一瞬で数年から数十年、時間が飛んだことになる。
あまり戸惑わせないように、順を追って説明しなきゃ。
とはいえ。
「話せば長くなりますし、城内にはほかにも復活した冒険者たちがいます。安全は僕たちが保証しますから、城門前に集めるのを手伝ってくれませんか?」
おじさんたちは顔を見合わせる。
城内に入るのをためらっているようだ。
「……ほ、本当にメデューサはいないのか?」
「いないのだ! これが証拠なのだ!」
ドラミが魔石を見せる。
メデューサの魔石だ。こっそり拾ってきたみたい。
「ちょっと貸してくれないかい?」
「どうぞどうぞなのだ」
おじさんは手袋を外した。
手の甲に補助系の花紋が浮かんでいる。
その手でにぎにぎして――鑑定結果が出たのか、目を丸くする。
「本物だ……」
「で、ではもうメデューサはいないのだな!?」
「きみたちが助けてくれたのだな!?」
「ありがとう! 本当になんとお礼を言っていいか……」
「気にしなくていいのだ! 冒険者として当然のことをしただけなのだ!」
「それでですね、さっきの話、引き受けていただけますか?」
「もちろんだとも! 事情を知らない者たちを集めればいいのだよな?」
「それくらいなら我々に任せてくれ!」
「きみたちは疲れているだろうから、休んでいてくれて構わないよ」
「ありがとうございます。事情を知らないまま逃げるひとが出ないように、僕たちは城門前で待ってます」
入れ違いになり、パニックのまま逃げだすひとがいたら大変だ。
雪山で遭難し、せっかく助かった命を無駄にしかねない。
話が決まり、おじさんたちを見送ると、僕たちは城門前で待機する。
そして――
「け、けっこう多いのだ」
「これで全部かな?」
青空から夕焼け空に移り変わる頃、城門前には人だかりができていた。
ざっと40人はいそうだ。
このなかのどこかにオニキスさんがいるはずだけど……捜すのはあとまわしだ。
最初に会ったおじさんたちに「これで全員だ」と告げられ、僕は声を張り上げる。
「これから事情をお話しします! メデューサの脅威は去りましたから、落ち着いて僕の話を聞いてください!」
みんなが戸惑わないように、言葉を選びながら説明する。
ここにいる全員がメデューサの被害に遭ったこと。
4年前の討伐失敗を最後にメデューサが討伐不可能リストに加えられたこと。
十つ花冒険者としてメデューサ討伐を引き受けたこと。
花紋付きとなったミミックの力でメデューサが黄金像にされたこと。
石像になった冒険者たちも一部を除いて黄金像にされたこと。
メデューサとミミックの討伐に成功したこと。
それによって全員の救出に成功したこと。
そして最初にメデューサが発見されて50年が過ぎていること――
「50年!? 50年が過ぎたのか!?」
おじさんと呼ぶにはまだ若い冒険者が悲鳴のような声を上げる。
「もしかして、最初にメデューサ討伐を請け負った方ですか?」
「い、いや、討伐というと語弊がある。私は廃城の管理人に依頼されて、護衛を引き受けたに過ぎん」
「なるほど……管理人は無事に帰還できて、そのひとからメデューサの話がギルドに伝わったというわけですね」
「失礼。その管理人というのは、もしやリト爺さんでは?」
「いや、リトという名前ではあったが、爺さんと呼べるような歳では……ああいや、しかし、そうか。あれはもう50年前の話になるのか……」
「リト爺さんは私の伯父です。リト爺さんは命懸けで逃がしてくれた冒険者を英雄のように語っていて……その話を聞き、私も冒険者になったのです。いまも……いや、8年前の話になるので存命かはわかりませんが、あなたに感謝していました」
「そうか。それは嬉しい話だが……しかし、50年か……。妻と娘はまだ生きているだろうか……」
「すまない。あのとき自分がメデューサを倒せてさえいれば……」
「いや、それを言うなら私がメデューサに負けさえしなければ、討伐不可能リストに加えられることも……」
てことは、このおじさんが受付嬢の旦那さんか。
ほかにも家族がいるひとが大勢いるし、早く引き合わせてあげなくちゃ!
「とにかくメデューサの脅威は去りました! ここに長居は無用です! 急いで下山しましょう!」
「さんせーなのだ――うッ」
「ど、どうしたのドラミ!?」
「手が痛いのだ……」
ドラミが手をさすっている。
一生懸命に雪像を作ってくれたから凍傷になりかけてるんだ。
「すみません! どなたか凍傷薬を持ってませんか?」
「俺のを使うといい!」
背の高いおじさんがこっちへ来た。
頬に傷があり、腰に大剣を下げた、屈強な体つきのおじさん――
オニキスさんだ!
す、すごい! 村に来たときと見た目が変わってないよ!
僕にとっては12年前でも、オニキスさんにとっては最近の出来事なんだな……。
とにかく無事な姿で保護できてよかった。
これでガーネットさんも喜んでくれるぞ!
「あああッ!」
手袋を外したドラミが悲鳴を上げる。
……手が痛むのかな。
「だいじょうぶ?」
「や、やらかしちゃったのだ!」
「……やらかし?」
「ドラミの花紋が、成長しちゃってるのだ!」
「……ほんとだ。三つ花になってるね」
「あのときメデューサの魔素を吸収しちゃってたのだ……」
自分の力で成長しないとマリンちゃんに顔向けできないって言ってたもんね。
「気にすることないよ。ドラミは凍傷になるのもお構いなしに雪像を作ってくれて、そのおかげでみんなを助けることができたんだから! そりゃメデューサにとどめを刺したのは僕だけど、ふたりで掴んだ勝利なんだ! ドラミは自分の力で成長したんだよ!」
「う、うおおおお! ドラミは自力で三つ花になったのだ!」
ドラミはとっても嬉しそう。
凍傷薬を手にぬりぬりして、ありがとなのだ、とオニキスさんに礼を言う。
三つ花の花紋に夢中で、オニキスさんには気づいてないみたい。まあ、話に聞いていただけで、ドラミは直接顔を見たことがないもんね。
あとで教えてあげなくちゃ。
「それではさっそく下山しましょう!」
「うむっ。急がないと山小屋に到着する前に日が暮れ――し、しまったのだ! これだけの人数、山小屋には入りきらないのだ!」
「飛んで帰れば今日中に王都へ到着できるが、どうするね?」
「そ、そんなことができるのだ!?」
「私は風系統が得意なのでね。ただ、これだけの人数を飛ばすのは厳しいが……」
「でしたら、私があなたを強化して差し上げます。私の花紋は補助系ですので」
「おお、ありがとう! あとは寒さをどうするかだが……」
「寒さは俺に任せるといい。俺のシールドなら凍てつく風も防げるからな」
「だったら案内はドラミに任せるといいのだ!」
そうして全員の力を合わせ、僕たちは大空を飛んで黄金山をあとにしたのだった。
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