《 第8話 プレゼント作戦の行方 》

 王都に帰りついたとき、僕はめちゃくちゃ焦っていた。


 寝ている間にスターフラワーがしおれてしまっていたのだ!



「とにかく水を! 水を与えるのだ!」

「だよね! こういうときは水だよね!」



 急いで家に帰り、水を与えてみたが、復活の兆しはない。



「とにかく応援を! 応援をするのだ!」

「だよね! こういうときは応援だよね!」



 僕たちはスターフラワーに「頑張れ!」「負けるな!」と声援を送るが、やはり復活の兆しはなかった。



「こうなったら枯れちゃう前に渡すのだ!」


「枯れかけの花をもらっても嬉しくないんじゃないかな?」


「まだギリギリ枯れてないのだ! それにガーネットなら復活させられるかもなのだ!」


「た、たしかに……!」



 僕は花に詳しくないが、ガーネットさんは違う。


 花を育てているガーネットさんなら、スターフラワーを復活させることができるかも。



「わかった。渡すよ!」


「その調子なのだ!」



 ドラミとともに家を出て、おとなりのガーネットさん宅へ。


 窓の向こうは真っ暗だった。ドアをノックしてみたが、物音ひとつ聞こえてこない。



「熟睡してるのかな?」


「お風呂に行ってるだけかもなのだ。ここで帰りを待つのだ」


「でも家の前に立ってたら怖がらせちゃうんじゃ……」


「知らないおじさんだと怖いけど、ジェイドはお隣さんなのだ。怖がったりしないのだ!」


「僕は……怖くない……?」


「そうなのだ! ジェイドはちっとも怖くないのだ!」


「僕は……怖くない……」


「そうなのだ! 怖くないのだ!」


「僕は……怖くない……!」


「その調子なのだ!」


「僕は! 怖くない!」


「なにを騒いでいるのかしら?」



 淡々とした声に振り返ると、ガーネットさんが街灯のそばに佇んでいた。


 お風呂からの帰りなのだろう。濡れた髪が灯りに照らされ、なんだか神々しく感じる……。



「さ、騒いでごめんなさい!」


「元気があるのはいいことだわ」



 優しいなぁ。ますます好きになっちゃうよ。


 と、ドラミが脇腹を小突いてきた。わかってるって……。いくら緊張するからって、この期に及んで逃げたりしないよ。


 ドキドキと高鳴る鼓動をそのままに、ガーネットさんに植木鉢を渡す。



「これ! たまたま出先で見つけたんです! それで引っ越しのご挨拶にと思いまして!」


「こういうのは普通、引っ越してきた側が渡すものじゃないかしら?」


「僕の故郷では引っ越してきた側に渡すのが普通なんですよっ! それでですね! なんとなく、ガーネットさんって花が好きそうなので、これ良さそうだなーと思って摘んできたんですけど、途中でしおれちゃいまして……」



 ガーネットさんは僕に近づき、スターフラワーをまじまじと見る。


 あぁ、ガーネットさんの顔がこんなに近くに……。



「これ、スターフラワーだわ」


「よくご存じで! ガーネットさん、こういうの好きですか?」


「好きよ」



 よしっ! 少なくとも花選びは成功したようだ。


 だからこそ悔やまれる。どうして枯れちゃったんだろ……。



「それで……どうですかね? ガーネットさんなら、ここから復活させられますか?」


「無理だわ。スターフラワーは、世界樹の根から漏れる養分がないと育たないもの」



 えっ、そうなの!?


 知らなかった。特定の環境でしか育たないなんて……。スターフラワーに悪いことしちゃったな。



「じゃあもう枯れるのを待つだけってことですか?」


「力になれなくて申し訳ないわ」


「そ、そんな! ガーネットさんが気に病むことでは! むしろ僕こそごめんなさい! 元気な花を見せられなくて!」


「構わないわ。それより、本当にもらってもいいのかしら?」


「えっ。もらってくれるんですか!? 枯れかけなのに……?」


「だめかしら?」


「いえ、どうぞ! もらってください!」



 スターフラワーも最後の瞬間をガーネットさんと過ごせるなら幸せだろう。


 植木鉢ごと譲ると、ガーネットさんは首を振る。



「植木鉢はいらないわ。すぐに押し花にするもの」


「押し花に?」


「ええ。押し花のしおりにすれば、綺麗な姿を保てるわ」



 僕の贈り物をしおりとして再利用してくれるなんて……。



「ありがとうございます!」


「なぜあなたがお礼を言うのかしら?」



 たしかに贈り物をした僕がお礼を言うのは変だ。



「ええと……いまのはスターフラワーからのお礼です!」


「どういたしまして。あなたのこと、大事にするわ」



 ガーネットさんはスターフラワーにそう語りかけると、家に入っていった。



「……贈り物作戦、成功したのだ?」


「上手くいったよっ。ありがとうドラミ、背中を押してくれて!」



 僕の喜びが伝わったのか、ドラミはパッと笑う。



「ドラミもお世話になってるから、ジェイドの役に立てて嬉しいのだ! これからも不安なときはドラミを頼るといいのだ!」


「頼りにしてるよっ。お礼に今日は好きなものをご馳走してあげる!」


「やったのだ~! 今日はお魚の気分なのだ~!」



 嬉しそうに声を弾ませるドラミを連れて、僕は食事処へ向かうのだった。



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