007  異世界では竜退治が順番で回ってくるそうです



――エリオットの説明を簡単にまとめると、こんな話だった。


『国内で暴れる竜の退治は、有力な貴族の間で順番に担当する』…という決まりがあるらしい。

(町内会の清掃当番みたいなものなんだね、と相槌を打ったけど彼には通じなかった)


本当なら、前回任命され、見事に火竜退治を成し遂げたリヴァーシュラン伯爵家(おばあちゃんとエリオットの一族)には、当分その任務は回ってこないハズだった。

(凶悪化して人や村を襲う竜の出現は、三十年ぐらいの間隔で発生する『天災』だという認識らしい)


とある侯爵の策略により、任務を断ることができない状況だという。


「その地位が高いのに器が小さそうな侯爵は、エリオットの家に何か恨みでもあるの?」


わたしの問いかけに、エリオットはこくりと頷いた。


「侯爵は、リリアーナ様に…その…懸想けそうしていたそうなのですが、手酷く振られたそうで」


「「…ああ…」」


わたしと兄は同時に乾いた相槌を打った。

なるほど、恋愛絡みか。


「婆さまは鉄火な人だったから、きっぱりと容赦のない言葉で、淡い期待も抱けないくらい、ハッキリと断られたんだろうな」


「…それだけならまだ良かったんですが」


「まだ何かあるの?」


「吟遊詩人が歌うリリアーナ様の武勇伝の中に、『己の身の程をわきえず、英雄に求愛した愚かな男たち』の一人として、その顛末が面白おかしく脚色されていて…」


「「…。」」


「侯爵が自領に訪れた吟遊詩人に歌わないように禁止令を出したり、その歌を聴く聴衆を取り締まろうとするほど、逆効果になってしまって…」


「あの侯爵は本当に阿呆な奴なんだと、噂されるようになっちゃった…とか?」


「ええ、そうなんです」


「きっとプライドの高い人なんだろうね」


わたしの言葉に、兄とエリオットが頷いた。



「好きな女に振られたあげく、国中に失恋したことを広められて、それを止めようとして更に嘲笑された…ってことか。

それで怒りの矛先を婆さまの実家に向け、厄介な竜退治を無理矢理押しつけた…と」


「「「…。」」」


自分の自業自得なのに、馬鹿が権力持ってると迷惑だなぁ。




血継神器リヴェラートは、遥か昔…僕たちの世界に魔法を教え広めた『はじまりの魔法使い』が、親しい友人たちのために、自ら作って贈ったものだと云われています。

その製法は伝えられておらず、どのように作られたのか解明もできないため、新たに作り出すことができない貴重な増幅器なんです」


「増幅器…ということは、剣は攻撃力を増やせるのか?」


「ユートの推測通りです。

剣は攻撃力、腕輪は魔力、指輪は防御力を飛躍的に上げることができます。

凶悪化した荒ぶる竜を倒すのは命懸けですから、神器を装備して、可能な限り力を上げなければ……僕では到底敵わない」


兄はエリオットの思いつめた表情を見ながら尋ねた。


「まさかとは思うが……その竜退治、おまえが行くのか?」


「はい。

僕の父は数年前、領内で暴れる大蛇を退治した際、足を負傷したんです。

通常生活には支障がありませんが、戦うことはできません。

分家の親戚たちは侯爵の嫌がらせに耐えかねて、国外へ移住してしまっていて…。

姉上たちは他家に嫁いだ身ですし、今、我が家で戦うことができるのは、僕ひとりだけなんです。

信頼のおける方々に随従ずいじゅうをお願いしてありますが、血継神器リヴェラートは血族しか装備できませんし、主力として戦う僕がすべて装備することになると思います。

若輩者ですが、全力を尽くしてがんばります」


「「…。」」


いや、そんなキラキラした笑顔で言われても……君は明らかに戦闘向きじゃないよね?


わたしと兄が無言でエリオットの細っこい身体つきを眺めていると、彼は顔を赤くして抗議した。


「ぼ、僕はこれでも、魔導士なんです!

童顔だし、背も小さいから、弱弱しく見えるかもしれませんが…」


…あ、自分で言って、自分で落ち込んでる。

わたしより年上なのに、背の高さはほとんど同じだもんね。


よしよし、いい子いい子。

きっと、まだ背は伸びると思うよ。


わたしはエリオットを慰めようとして頭をなでなでしているうちに、ふわふわの手触りに夢中になった。

わぁ、猫っ毛最高~。


「優奈、いい加減にしなさい。

失礼だろう」


冷気を垂れ流している兄にがしっと手を掴まれて、無理矢理引き離された。

親戚をなぐさめたかっただけなのに(ちょっと私情が混じったけど)…そんなに怒ることないのに…。


一応本人にもごめんねって謝ると、エリオットは真っ赤な顔で「大丈夫です」と言った。



「――話を戻すが、まぁ、そういった事情があるなら、そちらに返してもいいと俺は思う。

亡くなった婆さまも、自分の子孫が故郷に持ち帰り、受け継いでくれるのなら喜ぶだろう」


「…え? 

僕、子孫というほど離れていないですよ?」


「「?」」


「リリアーナ様は、僕の父の妹ですから、僕にとっては叔母にあたります。

リリアーナ様から見ると、僕は甥ですね」




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