006 まずは簡単な自己紹介から
兄はおばあちゃんのフライパンと腕輪が本当に反応したのを見て、エリオットくんの話を真面目に聞く気になったらしい。
わたしが台所でお茶を淹れているあいだに、エリオットくんはぐるぐるに巻かれていたガムテープを外され、イモ虫から人間の姿に戻っていた。
ふわふわな金髪は乱れたままだったけど、もとからおさまりの悪い髪質なのかもしれない。
猫っ毛みたいだから、触るとやわらかくて気持ちよさそうだ。
深緑色のコートもいっしょに脱がされたのか、フツーの白シャツと黒いズボン姿で正座している。
「…。(たぶん兄に無理やり脱皮させられた上に、正座まで教えこまれたんだろうな)」
そんな風に流されていていいのか、エリオット!
このヒト、気がついたら襲われてた……とか、ありそうで怖い。
(もちろん相手は老若男女問わず。 彼はどう見ても『総受け』タイプだよね)
簡単に誰かの色に染まってしまいそうなエリオットくんをわたしがなまぬるく見つめていると、至近距離に兄の無駄に綺麗な顔が出現した。
…兄、邪魔。
エリオットくんが見えない。
ぐいっと手で兄の顔を横にずらそうとしたけど、動かない。
ぐぐぐぐぐっと本気で力を入れても、微動だにしない。
「…なに?」
根負けしたわたしが訊いてあげると、兄はぷうっと頬をふくらませた。
「何でお兄ちゃんじゃなくて、あいつばっかり見てるんだ?」
「…。」
兄の顔なんか見慣れてるから、見ても面白くないし。
っていうか、自分でお兄ちゃんって言うのヤメロ。
あと、兄がほっぺた膨らませてもぜんぜん可愛くないから。
…と、心の中で罵倒しつつ、わたしはちゃぶ台に茶碗を置いた。
豆大福といっしょにエリオットくんにすすめる。
「…どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
茶碗をつかんで恐る恐る日本茶を口にしたエリオットくんの表情が一瞬歪んだ。
「苦かったら、こっちの甘いお菓子といっしょに食べるといいよ」
「あ、はい」
ぷにぷにの白い餅が珍しいのか、彼は指でつついて感触を確かめた後、ちいさく口を開けてぱくっと豆大福に食らいついた。
「美味しいです!」
「そう? よかった」
キラキラ輝くようなエリオットくんの笑顔に、わたしもつられて笑う。
なんか小動物を手懐けているみたいだ。
エリオットくんが口いっぱいに豆大福を頬張る姿を見ていると、昔飼っていたハムスターのハムテルを思い出す。
ハムテルもひまわりのタネを一生懸命食べている姿が可愛いかった。
わたしとエリオットくんが和やかな雰囲気を生産している横で、兄は冷気を漂わせている。
こんなに可愛い生き物のなにが気に入らないのかわからない。
兄は大型獣派だったっけ?
「…あの…」
エリオットくんが遠慮がちに口を開くと、兄は冷ややかな声で応じた。
「なんだ?」
「お二人のお名前を教えてもらえますか?」
「貴様に名乗る…」
名などない……と兄がドヤ顔で言う前に、豆大福で口を塞いだ。
かぽっと見事にはまったよ。
うん、わたし、
「兄の名前は、
わたしの名前は、
「ユート に ユーナ ですね。
『こーに』と『ちゅーいち』……というのは?」
「学年をあらわす言葉…って説明でいいのかな?
こっちの世界では、小学校で六年、中学と高校でそれぞれ三年づつ、大学では四年間学ぶの」
「なるほど。
学業の習得過程の何年目…という説明が端的にできる言葉なのですね」
「エリオットくんは?
わたしと同じぐらいの年に見えるけど…」
「はい、ユートより三つ年下の十四歳です。
ユーナとは、一つ違いですね。
エリオット・リヴァーシュラン…というのが、僕の名前です。
どうぞ、エリオットと呼んでください。敬称はいりません。
リヴァーシュラン家の跡継ぎとして、リリアーナ様と神器を探す使命を帯びて、こちらに辿り着きました。
どうしても
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