005  神剣が〇〇〇〇〇になった理由



「こちらの世界では、一九四一年…今から八十年ほど前に戦争が起きて、政府は武器を作るために国民に対して金属を供出きょうしゅつするよう求めた。 

金属類回収令が制定されると、金属類は強制的に徴収され、逆らうことは許されなかった。

婆さまの夫…俺たちの爺さまは、刀匠とうしょうだったんだ。

刀を専門に作っていた鍛冶師だと言えば解るか?

婆さまはこっちでは百合子ゆりこという名を名乗っていたんだが…『お国のためとはいえ、百合の大事な剣だけはどうしても渡せない』と、爺さまは剣を鋳熔いとかしてコレに作り変え、終戦まで屋根裏に隠していたそうだ。

剣を隠し持っているのがバレたら言い逃れの余地はないけど、台所用品ならまだ誤魔化しようがあるから…と」


「…。」


エリオットくんは兄の説明に頷きながら、真剣な表情でじぃっとフライパンを見つめている。

(でも体勢はイモ虫のままなので、緊迫感は漂わない仕様)


「剣のまま隠し持っていて見つかった場合、軍人の武器として徴収ちょうしゅうされてしまう恐れがあったから、手元に置いておくためにはどうしても形を変える必要があった…と聞いている」


「――そう、なんですか」


「コレには紅い石が付いてないから、魔宝石はそのときに外したのかもしれないが…」


兄の言葉をエリオットくんはさらりと否定した。


「あ、それは無理です」


「「?」」


「一度何かに定着させた魔宝石を取り外すことは、魔導士にもできません。

恐らく…剣と一緒に溶けて、そのフライパンの一部になっているんだと思います。

試しに、僕の腕輪に近づけてみてくれませんか?

本物なら、共鳴して光るはずですから」


「…。」



ちゃっちゃと進めようよ、ちゃっちゃと!

わたしは渋る兄の腕をつかんで、エリオットくんの左腕の腕輪にくっつけた。


えい!


フライパンと腕輪が接触した瞬間、腕輪の金の蔓草つるくさの文様もんようが、まるで生き物のように光を放ちながら動き始めた。



「光ったね」


「…光ったな」


「……光りましたね」


光というよりは、キラキラ光る霧もやみたいに見える。


兄がイモ虫状態のエリオットくんのそばに膝をついている姿を見ると、なんだかBL漫画のワンシーンのようだった。

よく告白シーンなんかで出てくる、薔薇とか花が舞い散る場面みたいな感じ。


兄ほどの美形じゃないけど、エリオットくんの顔立ちもかなり整っている。

シャープな美青年とわずかに幼さ残している美少年……なかなかいい組み合わせなのかも。


わたしが真の腐女子だったら、もっとこの状況と構図を楽しめただろうに。

(ちょっと残念)



「優奈、おまえ何か良からぬことを考えていただろう? 

今、全身に鳥肌が立ったぞ」


「…ううん、別に?」


チートな兄の第六感をにっこり笑顔でかわしつつ、わたしは話をそらした。


「ところで、エリオットくんがおばあちゃんの剣を持って帰らなくちゃいけない事情って…?」



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